ブック・レビュー 『歌の旅をつづけて』ブックコンサート
遠藤久美子
オペラ歌手
著者の自叙伝でもあり、主への賛歌でもある
「福音歌手として歌の旅をつづけて十五年。まだまだ人生の旅は途中だけれど、少し立ち止まり振り返ってみると、なんと多くの出会いがあったことだろう。なんと多くの恵みがあったことだろう。晴れの日も雨の日もあったが、そのすべては大切な恵みの道のりだ。
今その恵みを数えつつ、ブックコンサート第二幕として、心に響く歌を各章のタイトルに、歌詞を挟みながら書いてみようと思う」(本書「前奏」より)。
ここに、本書に込めた著者の想い、目的がすべて表されています。
「ブックコンサート プログラム」と題し、「前奏」、八章(曲)からなる音楽活動を通しての証し、そして「後奏」として構成されています。
そして、その活動の様子が数々のカラー写真によって、臨場感を与えられています。
著者には、一度お会いしただけですが、そのお人柄は、本書から感じられる印象と何ら変わることのない、清澄なみずみずしさを感じさせます。
この本は自叙伝でもあり、主への賛歌でもあります。
こんな一節を思い浮かべます。歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」のなかで、実在の女優アドリアーナによる「私は芸術のつつましいしもべです」という詠唱(アリア)があります。
「私は創造の神の、ただのしもべです。私は、台詞を朗し、人の世の悲喜劇を舞台にのぼらせては、神の御手に仕えるつつましい道具です」歌を通して、世界各国のさまざまな光と影を目の当たりに見てこられ、国や言語の違いを超えて、人々の喜び、悲しみ、嘆き、祈り、言葉に言い尽くせない想いは、深い共感とともに、普遍的なものにつながっていくことを、感じさせてくれます。
この恵まれた日本にあって、本書が、大きな架け橋となって、世界のいたみを気づかせてくれる、かけがえのない恵みの一冊になることと信じます。