ブック・レビュー 『牧師とその家族のメンタルケア』
堀 肇
日本伝道福音教団 鶴瀬恵みキリスト教会牧師
ルーテル学院大学臨床心理学科講師
牧師が自分と他者に向き合うための好著
牧師の主な職務が説教と牧会であることは周知のことですが、それにしても牧会ケア、分けても牧会者へのケアに関する書物が少ないのは驚くほどです。そうした言わば実践神学の貧しい実情と事の重要性・緊急性を考えると、このたびの『牧師とその家族のメンタルケア』(共著)の出版は遅きに失したと言ってよいほどです。本書は「牧師のメンタルヘルス」(窪寺俊之)、「牧師とその家族へのメンタルケアの理解、対策、ならびに援助システムについて」(森田悦弘)、「メンタルヘルス こころの病と向き合うということ」(久保田拓志)の三部構成で、一読して非常に行き届いた本だと思いました。
窪寺氏が取り上げられた牧師の直面する諸問題は多岐にわたっており、牧師たちの誰もが知りたいと思っている事柄です。筆者が特に共鳴した点は、牧師の個人的な「生育史」「牧師夫人・女性教職」「牧師のスーパーバイザー」などです。取り分けスーパーバイザーの制度や臨床牧会教育の必要性に関する言及は日本の教会・神学教育機関への緊急提言であるとも思わされました。窪寺氏は「牧師が自分ひとりで意識しにくい心の底にある問題」に気づくためにスーパーバイザーが必要であると述べておられますが至言です。
森田氏の「メンタルケアの必要性」についての二人の牧師の対話は、問題点がクリアにされ効果的な学びとなっています。とくにケアのための人間関係において「秘密を守る」ことが必要だという指摘にはいたく同感、納得。これは友情成立の原則とも言ってよいものです。久保田氏の取り上げられた精神病理学的な諸問題についての知識・情報はメンタルケアについての不可欠なものです。今では統合失調症やうつ病などの理解は広まってきていますが、加えて人格障害や発達障害などの理解が必要になっている時代です。本書には、その最低限の知識が網羅されていますので、牧会上大きな助けになります。
本書がまずは牧師会などの研修用テキストに用いられることを願っています。