ブック・レビュー 『牧師室で考えたこと』

『牧師室で考えたこと』
森 和亮
日本長老教会 横浜山手キリスト教会 牧師

教会形成にあたる教職者と信徒のために

 著者は、一教会の牧師としての働きの現場から、今日まで数々の小さくともすぐれた書物を世に出してきてくれました。その中には、『ひとり神の前に(ヨナ書からの説教)』や『ヤコブの手紙』のような説教集もあれば、『礼拝のこころえ』や『教会生活のこころえ』のように信徒にも牧師にも広く歓迎され用いられてきた実際的な書物もあります。

 今回、その両者の要素を合わせ持った、素敵な一冊が加えられました。

 著者が牧会生活を終えようとするタイミングに、この本は出されました。この本の末尾に収められた文章の題も、それにふさわしいかのように「牧師の交代について」となっています。しかし著者からは、四十五年にわたった自らの牧会生活をいとおしむように振り返るというような大仰な姿勢はいささかもうかがえません。「教会の機関誌に数年にわたって書いたものがもとになっています」(あとがき)と著者自身があっさり言っています。著者の姿勢は、ここに至ってもあくまでも「前向き」です。

 それは「著者の願いは、困難な現実の中で教会の形成にあたっておられる教職者と信徒のために、この本が少しなりともお役に立つことです」(まえがき)という言い方に表れています。(自分が後進に道を譲ろうとも)変わることなく続けられていかねばならない教会形成のわざのために、いささかでも貢献したい、という謙虚で熱心などこまでも「現役の」牧師の姿です。肩書きこそ「牧師」から「協力牧師」へと変わりはしましたが。

 「牧師の交代」こそある意味では最も難しい問題ではないかと、ほかならぬ筆者も、その時を迎えつつある一人として感じています。しかし著者は「投手交代」にも比べられるそのデリケートな難しさにも、こうして貴重な一論文を著しながらきちんと前もって向き合い、直面していったことがわかります。励ましです。

 蛇足を一つ。著者は、小学校六年以来の筆者と同じ草野球チームの仲間で主戦投手でした。