ブック・レビュー 『現代を創造的に生きるために』
創世記1-11章からの52の黙想
関野祐二
聖契神学校校長
釈義や神学的背景をしっかりおさえ、現代を生きるための黙想にいたらせる
創世記は、神・人・世界を根源から知り、聖書全巻にわたる罪・契約・イスラエル・贖い(救い)の進展を出発点から見通す要の書。同時に、記者/編者や成立過程、自然科学との関係などデリケートな諸問題を含み、聖書を誤りなき神のことばと標榜する福音派にとっては、扱いの難しい書でもあろう。激しく変化する現代を真実に生きるため、著者はアブラハム登場までの創世記1-11章から「世界と人間に対する神の意図を把握すること」を目指す。どのようなスタンスと切り口で解き明かされているか、興味津々で読んだ。内容は副題のとおり、見開き二頁で一回分の「五十二の黙想」だが、いわゆるディボーショナルな筆致ではなく、簡潔な表現ながら釈義や神学的背景がきちんとおさえられており、心と頭をフル回転させてじっくり味わうべき重厚さを有する。それもそのはず、著者は序文において本書の特徴とは、創世記を選民イスラエルへの啓示、新約聖書とのキリストによる終末論的つながり、組織神学的理解と適用において黙想すること、と提示している。だから、本書は読んですぐに「恵まれる」即効ドリンク剤の類ではなく、思索と現代的適用を読者に求めるのだ。巻末に掲載された「救いの構造」表もレベルが高い。評者と同じく著者も理工系出身で、肌合いが似ているからか、その明快さに心地よさを覚えた。
個人的には、創世記の成立(1)、自然界の偶然性と神の超越性の関係(3)、天地創造記述の性格(5)、偶然による進化論と変異のプロセスとの区別(7)、文化命令の理解(14)など、創世記一章、二章に対する著者の洞察と踏み込んだ叙述がとりわけ新鮮に感じられ、本書の真骨頂と思う。
創世記という書の豊かさ、著者の黙想が目指す高さ、限られた字数を考え合わせると、時に創世記そのものよりも新約的発展に割くスペースが勝る箇所について、もう少し創世記それ自身に語らせてほしいと願うのは、欲張りすぎだろうか。