ブック・レビュー 『生きる』
――元ハンセン病患者谷川秋夫の77年
江見 太郎
国立療養所 長島愛生園 曙 教会 牧師
いのち、燦々
かつては「隔絶の島」と呼ばれた長島に、本土からの架橋が実現して十三年になる。国賠訴訟・熊本判決で勝訴の確定により、事態は急転し、元ハンセン病患者の尊厳と人権回復の突破口が開かれ、多年にわたり、地獄の苦しみを味わい続けてきた現代の「ヨブ」ともいうべき人々の上に、ようやくにして希望の曙光が射しはじめた。このたび「元ハンセン病患者谷川秋夫の七十七年」の副題のもとに、児童文学者として心温まる作品を数多く発表してこられた大谷美和子さんが執筆され、本書が出版される運びとなった。まことにこの人にしてこの作品ありとうなずかせる、豊かな人間性と慈愛に満ちた眼差しをもって、人間、谷川秋夫を見事に描き出し、読者の目を見張らせてあまりがある。
同室の先輩をして、「愛生園一番の働き者だ」と言わしめた秋夫は、視力を失い、両手足が麻痺した身体で、どこに出かけるにしても、他者の介護が必要である。
所属教会の牧師として、なみいる主日礼拝の会衆の中で、指定席と思しきあたりに秋夫の姿を見て安堵する。彫像のように身じろぎもせず一心不乱に聖言に聴き入る姿に聖者のもつ風格さえ覚える。
生かされてこそ人は生きる。多年にわたって、この世に生を受けてきたことの証しとして、機会あるごとに創りつづけた短歌が、思いがけなくも歌会始に入選したのである。それは一九九二年の師走も押し迫ってのことだった。
なえし手に手を添へてもらいわが鳴らす
鐘はあしたの空にひびかふ
生きていてよかったと しみじみ感じるきょうこの頃ではあろう。