ブック・レビュー 『癒し癒されて』
栄光病院ホスピスの実録
窪寺 俊之
関西学院大学神学部 教授
ガンの苦しみを負う患者、家族に慰めと希望を
私が尊敬する医師で、人生のよき理解者である著者の二冊目は、死と直面してきた患者さんと家族のよき理解者、援助者としての証しの本である。福岡県にある栄光病院にホスピスを開設し、十七年間で二千七百名ものガン患者さんとその家族に心を尽くして仕えてこられた。その実感は「ホスピス病棟は私にとってまさに人生道場です」という言葉に現れている。
八歳で後腹膜神経芽腫を発生し、十六歳でホスピスに入院、十七歳で生涯を閉じた少女。五十六歳で左腎臓ガンになり手術、入退院を繰り返し、行き着いたところがホスピス。「私はまだ諦めていません、頑張ります」といい、ある日「先生、きれいな心がほしい」といって、キリストの愛と赦しを求めて受洗してクリスチャンになった人。沢山の写真の中の患者さんと家族の顔には、明るさと安らぎが輝いている。
その経験から得た結論は、「患者さんは弱い、私も弱い、しかし、それでいい。かえって互いの弱さにしっかりと対峙しそれを認めるところから、新しいいのちの出発が始まる」とある。最先端の医学知識と技術でも完治できないガンの末期の前に立ち、人間の無力さを素直に認めつつ、なお新しい生命の出発があることを少しも疑わずにケアし続ける、一人の医師、信仰者の姿に心が打たれる。
このような医療の背後には、スピリチュアルケア(霊的援助)への熱い思いがある。「スピリチュアルケアこそはホスピスケアの最終目標であり、ホスピスケアの本質的役割を果たすということである」という信念が、質の高い医療を実現させている。
オーストラリアでの海外看護留学する長女のかおりさんも執筆し、ナース資格取得、緩和ケアナースへの道などの情報を得ることができる。
現在、ガンの苦しみを負っている患者さん、家族にとっては慰めと希望を見つけだすことができるので、多くの方に読んで頂きたい本である。