ブック・レビュー 『神の国はあなたがたのもの』
松木 充
日本ホーリネス教団派遣 KFG志木教会協力牧師
山上の説教を読む絶妙のガイド
「山上の説教は難解だ」「厳しい」という印象を持つ方も多いのではないだろうか。そのような山上の説教をみごとに説き明かしていく。本書は、『山上の説教に見る幸いなクリスチャン生活』の増補改訂版である。初版を読まれた方も、より深められた釈義、より的確な表現や時代に合わせた例話・適用を見るはずである。
著者は新約学者として知られるが、本書はもともと教会における説教であった。学者の研究と説教者の心が融合・調和した一書と言えよう。
著者は、「聖書をもって聖書を解釈する」、「文法や文章の構造を考慮して言葉を理解する」、「歴史的文化的な脈絡において解釈する」、「普遍的に妥当する原則と、文化に密着した実例を区別する」という原則によって解釈する(「はじめに」より)。
「73 健全な目と悪い目」(6章22、23節)における旧約的背景からの説き明かしは、聖書で聖書を解釈する一例、「20 律法と言い伝え」(5章17、18節)における口伝律法(ハラカー)からの解説は、歴史的文化的脈絡による解釈の一例である。そのような高度で堅固な解釈が、専門家でない人にもよくわかる丁寧さ、平易さで終始一貫して説明されている。
例話や適用も豊富で、的確なものばかりである。このバランスの良さは、本書の最大の長所とも言える。聞く人の生き方を変えるべく語られた山上の説教にふさわしく、時を超えて語るメッセージとして講解される。さらには、そのような濃い内容が、一章あたり二ページ見開きで九十五章に手際良くまとめられている。
読みやすく、聖書個所ごとに拾い読みするのにも便利である。初心者から牧師まで、本書に新しく目を開かれるところが多くあろう。
本書にガイドされて山上の説教を読むとき、主イエスの御言葉がいきいきと語り出し、御言葉を生きる恵みの人生が開かれていくに違いない。