ブック・レビュー 『神様がくれた弱さとほほえみ』
20編の小さな物語
柏木道子
大阪キリスト教短期大学学長
弱さも、病も、沈黙も、すべて神への微笑みとなってあふれ出ている
月刊「百万人の福音」七月号のグラビアで、和やかな雰囲気のご家族に囲まれた西村隆氏が紹介されており、その姿を拝見した。著者が在学しておられた関西学院大学の窪寺俊之先生や、著者が受講した「死生学」の担当者の藤井美和先生を個人的に存じ上げていることもあり、大変親しみを持って原稿を読ませていただいた。全編は分かりやすく、詩的なことばで表現されており、人生に対するひたむきで限りない愛着が現されている。生と死を御手に握りしめておられる神様への畏敬の思いがあふれていて読む者は勇気と慰めを与えられる。
ご結婚当初も、発病して重篤な状態になられても、一貫して奥様を「イコール パートナー」として歩んでおられる姿、信頼と愛で淡々と進められる日常の家庭生活、お子様方の父親への敬慕の思いがあふれる行動の数々、そして家族への感謝に満ちた日常的な応答、これらを持ち前のユーモアでふんわりと包みこんだエッセイである。
著者が、神経難病であるALS(筋萎縮性側索硬化症)を発病されなくても、きっとここに描かれている雰囲気の家庭を築かれたであろうし、ご家族とともに楽しく勇気ある生涯を歩まれたであろうと想像できる。
このエッセイの文字の一つひとつは、著者の手から生まれたのでなく、足の親指の動きによってコンピュータの意思伝達ソフトから導きだされたものだと誰が想像できるだろう。文章の行間ににじみ出る味わいは格別である。
運動機能が次第に奪われる病ゆえに介助も必要となり、ことばを話すこともできなくなっておられる著者は、本書の冒頭に掲げてあるニューヨーク・リハビリセンター研究所の壁に掲げられている有名な「病者の祈り」をまさにご自分の人生で実証されている。人間が持つ弱さも、病も、沈黙も、無駄も、すべて神様に向けての微笑みとなって著者からあふれ出ていることを感じ、驚嘆するのみである。