ブック・レビュー 『私を祝福してくださらなければ』
荒削りの信仰者ヤコブの生涯
稲垣 博史
日本福音キリスト教会連合 岩井キリスト教会 牧師
ヤコブを取り扱われた神の忍耐と恩寵の豊かさに迫る
「聖書ってすごい!」この本を読んだ方は、だれもがそう感じるでしょう。聖書そのものの魅力を再認識させられます。すでに著者はヨナ、ヨセフ、アブラハムに光を当て、神が人をどう扱われるのか、人はどのように神に従うべきなのかを豊かに説き明かしておられました。今回の『私を祝福してくださらなければ』は、アブラハムの孫、ヤコブに焦点が当てられています。ヤコブと彼を取り巻く人々の姿から、それぞれの生き方、信仰のあり方が三千数百年という時間を超えて、自らの問題として迫ってきます。
副題に「荒削りの信仰者ヤコブの生涯」とあります。親から神信仰を受け継いではいました。でも、人格的、個人的な信仰とは程遠く、人を押しのけ、狡猾に生きてきたヤコブでした。そのヤコブが、次第に真の信仰者に変えられていく姿が見事に描かれています。べテルでの「天の梯子」の経験、ラバンのもとでの二十年の歩み、レアとラケルとの結婚生活、マハナイムでの経験、さらにヤボクでの「神の人」との格闘、エサウとの再会など、彼の人生の節々で主に取り扱われ、信仰者として成熟していく様子に、読む者は、自分自身の信仰の歩みを振り返させられ、また主の忍耐と恩寵の豊かさに改めて目を開かせられます。
著者は卓越した聖書学者としてだけでなく、何よりもひとりの牧会者として、キリスト者の直面する諸課題を深く理解しておられます。ヤコブだけでなく、レア、ラケルなどがそれぞれの状況をどう受け止め、対処したか、どういう課題があるのかを知らされ、自らの問題として深く考えさせられ、祈りに導かれます。
「あとがき」で著者は、最近ご自分の身体に起きた異変を、マラソンにたとえて記しています。思いがけなく、ランナーとして走っていたコースを早めに退き、終着点の競技場の周回コースを回ることになった、あと何度回れるかわからないことになった、と。何度も何度も回り続け、次々と聖書の「すごさ」を伝えてほしいと心から願います。