ブック・レビュー 『聖書ものがたり絵本 第1巻』

『聖書ものがたり絵本 第1巻』
小長谷 昂平
単立 東京カベナント教会員

聖書時代のリアリティーを追求した絵本

 本書が日本人による本格派聖書絵本だと聞かされたのは、二、三年前だったろうか。それも、直接画家の小林豊さんから。私は編集者という立場で、小林さんとはこれまでに児童書、絵本を五冊制作してきた。そんな関係で、聖書の話をときどきしていたし、聖書の世界を描きたいとも聞かされていた。
依頼したうちの四冊は、合計千ページを越すシリーズ読み物で、明治期の千葉県に実在した船大工の一生を描いた物語の挿絵だった。その際、小林さんは当時を再現しようと現地を作家とともに丹念に取材してくださった。その中で忘れられないのは、関東大震災以前と以後の海岸線を確かめたことだった。出来上がった挿絵の海岸風景を見ても、読者はそこまでの下調べのもとに描かれたものであるとは、とうてい思わないであろう。単なる想像ではなく、徹底的にその時代に生活した者と同じ目線で、具体的に描く姿勢である。
小林さんは一九七〇年代から現在に至るまで、日本の西にある国々、韓国、アフガン、イラン、イラク、トルコ、シリア、レバノンなどを歩いている。それらの国々は、日本の東京と同じく、北緯三十六度線周辺の帯状にあるからだ。その国が持つ特有の歴史と風土、社会状況のもとでしか生きざるを得ない生活者の目をもって歩いてきている。この『聖書ものがたり絵本』も同じ姿勢で描かれている。
「聖書には事実しか書かれていない。現代の今、聖書に記された場所に行っても当時とは全然変わっていない世界がそこにはある。風の流れも同じ。地名などの特定の場所は、遺跡として今も残っているから特定もできる。だから容易に聖書の世界が想像できるが、リアリティーをもって絵で表すことが難しかった。だからディテールまで描こうとした」と小林豊さんは語ってくれた。
この第一巻では、天地創造からアブラハム、イサクにいたるまでが絵本らしい簡潔な文章でわかりやすく書かれ、聖書に関心ある大人の読者にとっても、巻末の解説、聖書箇所等とあわせ最適の入門書にもなっている。