ブック・レビュー 『見えない神を捜し求めて』
工藤 信夫
平安女学院大学 教授 精神科医
神の探求と思索への旅
本書は、神とつながりを持ちたいと思っているのに、どうすればよいか分からないでいる人々のため、また神との関係を維持したいと必死になりながらも長くそれに困難を感じてきた人々のために書かれたものであるが、それは、ヤンシーの歩みそのものの反映でもある(6―7頁)。つまり彼もまた熱心に神を知りたいという強い熱情を抱いてきた人物であるが、アメリカ福音派の神への親しげなアプローチの行き過ぎにも、成功の証しばかりを宣伝して失敗の証しを伝えない現代の教会にも、疑問を抱く神の探求者なのである(22頁、176頁)。
自らを「牧師ではなく、疑いに感染した旅人」と称する彼の視点は、彼がジャーナリズムの出身であるだけに、よけい私たち信徒の日常性に迫るものを持っている。
例えば、ある人はその娘を、人々の祈りと助言の結果、評判の悪い高校から別の高校に移した。しかし間もなく、彼女が銃弾に倒れるという経験をする。神学校の校長になるという夢を与えられて準備していた男性の先に待っていたのは、脳腫瘍であった。こうした人生での不条理を神を信じている私たちはどう考えるべきなのだろうか(375頁)。
皮相的なキリスト教理解や簡単な問題解決の公式など何の説明にならないことを知って、彼はアウグスティヌス、C・S・ルイス、キルケゴール、モルトマン、オコーナー、ナウエンなどの先達の道をたどりつつ思索を深めていく。
本書を読むとこれまでの彼の著作がそうであったように、いかに私たちの多くがイエスを誤解し、信仰理解を間違っていたのかを洗い直される思いがする。この時代に彼のようなキリスト者に出会えたことを私は幸いに思う。
恐らくこれからのキリスト者に問われる資質は、このような多面的かつ誠実な思索と探求心ではないだろうか。訳者の労苦に深謝する次第である。