ブック・レビュー 『足の裏で470歩』
村上宣道
(財)太平洋放送協会会長 坂戸キリスト教会牧師
魅力あることばで福音を
ペンテコステの日に起こった出来事の特色は、福音が「それぞれ自分の国のことばで」話されたということである。国語は文化の心臓であると言われるが、聖霊が注がれることによって、福音はそれぞれの文化にマッチした形で伝達された。教会がこの地上に誕生するにあたり、それぞれの国民性、文化性、地方性にふさわしい福音宣教と教会形成がなされるべきであることを、当初より聖霊が意図しておられたことのあらわれと見てよいのではあるまいか。この『足の裏で470歩』には、まさにその「それぞれの国のことば」で福音が語られているのがよくわかる。日本にも千五百人もの人々が集う教会が形成されているという事実は、驚きであると共に日本の教会にとっての希望でもある。そのような教会が形成されるに至った理由のひとつには、そこで聖霊の豊かなお働きのもと、相手のわかることばで福音が語られているからだと思う。
この本は、神奈川県の大和市にある教会が、東京のド真ん中で「東京プロテスタント教会」を発足させ、毎日休みなしで四七〇日間も伝道を続け、そこで用いた四七〇日分のコラムがおさめられたもの。その書き方からして、〈キリスト教のイロハ〉の手引きを、日本人の最も親しんでいると言ってもいい“「いろは」かるた”ふうに書きつづっている。どうしたら集ってくる人々の心に、抵抗なくしかも興味深く、すーっと素直に福音を届けることができるか、細心のこだわりが垣間見える。また、全編にただようユーモアや適宜のことば遊びなどが、知らず知らずのうちに、心のカベやわだかまりを取り除く。
「言語こそ、この世の魅力の最高のものだ」という司馬遼太郎氏の文を引用しながら、「話し手の正直さこそが、言語における魅力をつくりだす」のだと語り、「練度の高い正直さは、ユーモアを生み、相手との間を水平にし、安堵を与え、言語を魅力的にする」と著者は記す。ここにも、この牧師の真骨頂を見るのである。