ブック・レビュー 『非キリスト教的思想入門』
山川 暁
日本同盟基督教団 多摩聖書教会員
記録文学作家
アメリカ人の思考に影響を与えているのは聖書の世界観ではない
アメリカ人の96パーセントが神の存在を認めており、83パーセントがイエス・キリストを信じているといわれている。しかし、本書の著者はアメリカが数字上においてはキリスト教国ではあっても、アメリカ文化そのものまでがキリスト教文化であると決めつけることは致命的誤りであると説く。著者は「アメリカ文化を分析して得られる一つの共通理解は、この国の統一は、もはや宗教に基礎を置いているのではない(かつてそうだったとしても)、ということでしょう」と述べる。この指摘はアメリカをキリスト教国と思っている日本人には意外感を与えられるかもしれない。
だが事実はアメリカ人の思考と行動に影響を与えているのは、聖書の世界観ではないという。彼らが影響を受けているのは実存主義であり、ヒューマニズムであり、プラグマティズムであり、実証主義であり、多元主義であり、また快楽主義である。つまり、アメリカ文化を支配しているのは、こうしたさまざまな哲学が競合しあって生み出された結果としての世俗主義であるという。そして、著者はアメリカのクリスチャンがこの世俗主義の哲学によって圧迫されていると説いている。
本書の特色は、各章ごとに10項目の「ディスカッションのための質問」が設けられていることである。個人で読むというより、教会の読書会でテキストとして読まれることを配慮してのことと思われる。
クリスチャンは伝道活動に先立って、まずアメリカ人がどんな文化によって影響を受けているのか、そのことを理解する必要がある。
本書はそうした視点から書かれた、アメリカ文化を形成しているさまざま思想や哲学を、教会の一般信徒が理解するためのガイドブックである。この著者の視点は日本における福音伝道を考えるとき、多く教えられるところがある。