ブック・レビュー 『魂の傷を癒すあわれみのミニストリー』

魂の傷を癒すあわれみのミニストリー
田中 哲
児童精神科医

傷ついた魂への使命

 本書は、性的に深く傷ついた若い女性たちの保護と救いに使命を感じた、ひとりの女性の活動の記録である。次の引用からもわかるように、彼女の時代認識はきわめて現実的な問題意識に裏付けられている。

 「私たちは困難な時代に生きている。……しかし、現在起きているほとんどの危機的問題に教会は対応できていない。……クリスチャン生活の最も重要なことは失われた者を得ることである。」(275頁)

 しかし、彼女はこの時代に失望するのではなく、そこに自分の使命を感じ取る。この「何とかしたい」という思いを実行に移すとき、おそらく(私をはじめ)多くの人は、公的なシステムの活用といった、より(地上的な意味で)現実的で社会的な方法で対処しようとするにちがいない。彼女は違う。このあわれみの使命にしたがうために、経済的にも、そして務めの実践においても徹底して神のあわれみに依り頼もうとする。

 しかし、考えてみていただきたい。彼女が相手にしようとしているのは、若くして社会というものの薄汚さをなめ尽くした女性たちである。人を信じることから最も遠くに疎外された人々なのである。ストレートな福音メッセージは最も届きにくいと考えるのがむしろ普通だろう。しかし彼女は愚直なまでに福音が人を再生する力にだけ依拠しようとする。このことを考えると、この働きを通して社会的に救済されただけでなく、霊的にも救いを得た魂が起こされ続けていることこそが、このミッションに対する上からの認証の奇跡であることがわかる。

 この働きは、経済的にも不思議としかいいようがない方法で支えられているが、そのような形で表される奇跡は、ことによると他の働きについての記録にも読むことができるかもしれない。だが、本書に記されているこの働きを通して人生の新しい意味に遭遇した女性たちの記録は、間違いなく本書でしか触れることのできないものである。