ブック・レビュー この時代を生き抜くために……悲しみや怒りに寄り添って

 『食卓から考える放射能のこと』
片岡輝美
日本キリスト教団若松栄町教会員・会津放射能情報センター代表

「ふきのとう セシウムよぎり にがみ増し」
加藤トキ子(日本キリスト教団若松栄町教会員)
これは今年の若松栄町教会「花の日子どもの日」美術展に出展された一句です。私たちが、季節の喜びをためらうことなく心から味わうことができなくなって三年目を迎えています。「ふくしまは安全!」との声が席巻する県内。しかし、スーパーに行けば、遠方産のレタスから売れています。やはり人々、特に母親や主婦は気にしているのです。
東京電力福島第一原子力発電所大事故は、私たちの生活すべてを不安で覆いました。汚染された海や河川、大地の数値を知れば知るほど絶望感に襲われます。そう言えば、震災以降「知る喜び」も体験していません。この年月、真実を知ることから得られるのは、悲しみや怒りだけです。
本書は、放射能汚染から人々の生命を守るために共闘する牧師と栄養士によって誕生しました。「はじめに」や「おわりに」には、汚染された地域に住んでいるからこそ体験した、また今でも体験している混乱や不安な思いが正直に記されています。そこには「心配しなくても大丈夫」ということばは一切ありません。このことばがどれほど多くの不安や不信感を生み出しているか、著者たちは痛いほど知っているからです。とにかくこの時代を生き抜くために、何ができるのかが、平易で丁寧なことばでつづられています。どのページから読んでも、知りたいことや再確認したいことがとてもよくわかります。そして、巻末にあるレシピ集も食事作りの楽しさを思い出させてくれます。
整理のつかない不安が混在しているとき、私たちは思考停止に陥ります。考えることに疲れ、諦めて座り込んでしまうのです。しかし、主イエスによってともに苦しみ闘う仲間と出会わされたとき、孤立感から解放され、未来の生命を守るための知恵を獲得していきます。
「知る力と見抜く力とを身に着けて、あなたがたの愛がますます豊かになり、本当に重要なことを見分けられるように」(ピリピ1・9~10、新共同訳)との祈りから、私たちは再び立ち上がる力を得ていくのです。