ブック・レビュー すべての人にある可能性と希望


山田 泉
ウェスレアン・ホーリネス教団 習志野キリスト教会牧師

一人につき、きっちり三ページ。たったの三ページで読み手の心に発熱が起こるのです。新約聖書から四十四人が取り上げられ、すべての人物が三ページで語られます。とても読みやすくなっています。これは「クリスチャン新聞・福音版」に「人間の物語から神の物語へ―聖書の世界に生きた人々」という題で連載されていたものを一冊の本として出版したものですので、これが一回の分量だったということですが、しかし見事です。一人ひとりを読んでいるときに、その人と直に触れ合っているかのような感触を持ち、人間として思い当たる人柄や心の動きに出会う、心がつながり、そしてポッと温かくなるのです。共感するのです。いえ、もっとはっきり申しますと、その一人ひとりを通して、いろいろな場面の自分自身に出会うのです。
取り上げられている人物を一部紹介しますと、長血を患っていた女性、ナインの母親、墓場で生活していたゲラサ人の男、東方の博士、エチオピアの宦官、タビタ、イスカリオテのユダ、ベツレヘムの羊飼い、クレネのシモン、パウロ、高価な香油で主の足を洗った「罪深い女」などで、この顔ぶれには戸惑いを感じます。共感を覚えるには違いすぎる個性と状況の人が多いからです。しかし、それは聖書の人物に対して親近感よりは距離をもって見る習慣や、伝統的固定観念をもって見ていたことによるものであることに気づかされます。
著者の目は、いわゆる固定観念にとらわれず、聖書の言葉の背後にあるものや聖書全体を読み合わせて、一人の人間の心の姿、動き、変化を読み取っています。どこまでも同じ人間目線で、誰にもある人間の心を丁寧に拾い上げているのです。そしてそこに注がれるもう一つの目線、神の目線へと導きます。
この本は人の弱さ、さまざまな課題を持つ不自由さ、また人の尊さ、豊かさを確認させ、すべての人にある可能性と希望を見せてくれます。誰しも内外に何らかの問題を抱えているものですが、ポッと温かくなった心には、生きることに楽しみを思う心が芽生えていると思います。

『弱さを抱えて歩む
―聖書の世界に生きた人々』
堀 肇 著
B6判 1,300 円+税
いのちのことば社