ブック・レビュー なぜ、神は―」疑いではない、知りたいのだ
関野祐二
聖契神学校校長
東日本大震災以来、「なぜ、神は?」との根本的問いを発することが多くなったように思う。疑いではない。知りたいし、思索したいのだ。答えが出ない問いを扱うには、信仰の原点たる聖書を体系的に凝縮した〝聖書教理”に立ち戻るのが良い。ガイドラインとして最適の書が邦訳されたのは、実にタイムリーだ。
本書は、聖書教理全体を九四項目で解説した神学概論。啓示とは、神のご性質とみわざとは、神のかたち&堕落した人間とは、キリストとその贖いとは、救いとは、教会と国家とは、死と再臨……などなど。例話もなく硬派だが、一項目が短いので集中力が切れかかると次に移る。何より密度が濃くて満足度が高く、目からウロコの連続。興味ある項目を見つけ、拾い読みするのも悪くはないが、全体が有機的な体系なので、できれば通読したほうが良い。
著者パッカー博士は、福音派の代表的神学者で、難解な神学項目を正しく美味しく解説する手際の良さは圧巻だ。予定、限定的贖罪、有効召命、堅持など伝統的カルヴァン主義に立つが、立場の異なる読者にも十分有用な明快さと、共通基盤の確かさがあろう。カナダでパッカー師に学んだ訳者が、恩師の肉声を思い出しつつ最適の訳語選定に尽力した姿は、原書を神学校で用いた評者にも伝わって来る。
著者は、〝神学とは神讃美と献身のため、神を愛し敬虔な生き方を実践するため”と語る。疑問がすべて解けるわけではないが、主のおことばどおりこの身に、と告白したマリヤのごとく(ルカ一・三八)、神信頼の大海原に漕ぎ出すためのものなのだ。「善性」「栄光」「契約」の項目を試しに読んでみればそれが解る。
たとえばある休日の午後、五時間を確保して一気読みすることをお勧めしたい。各章二~四頁程度だから、砂時計を前に一項目三分でどんどん読み進めるなら、九四章で二八二分。十分の休憩二回で読了だ。夕食時には「パッカーパック」(著者パッカーが凝縮した神学素材。一三頁参照)が頭の中で膨らみ、大空へ舞い上がる熱気球のように、熱き心は神のもとへ引き上げられること請け合いであろう。
『聖書教理がわかる94章』
J・I・パッカー 著
篠原 明 訳
四六判 2,100 円
いのちのことば社