ブック・レビュー みことばによって、もう一度立っていく
伽賀 由
日本メノナイト 帯広キリスト教会牧師
信仰を持って、しっかりと現実の社会で生きようとしたとき、そこで起こる社会の不義に、「怒り」で神を見失いそうになるときがあります。
特に感情の中で「怒り」「憤り」を、信仰的に受け止め、整理するには時間がかかるものです。怒りの対象者や出来事に対して、愛をもって親身に向き合おうとすればするほど、もがき苦しみます。
この本は、その「いき場のない思いや心いっぱいに広がっていく」苦悩を「鈍色」として表現しています。コンパクトで読みやすい本です。しかし一つ一つの内容や文章は、決して安易なものではなく、考えさせられます。私は読んでいて、何度も立ち止まりました。
著者が自身の魂のひだに触れながら、通常なら見逃す自身の変化に気づき、丁寧に触れている文章に、私自身、今の現実の社会から目を背けていないかどうか問われた気がしました。
自分も含めて苦悩する方の気持ちを、一足飛びに導こうとして、何かを見逃していないかどうかと考えさせられました。私たちは問題の解決にせっかちになりやすいときがあるのではないでしょうか。
本の背後に、著者がどれだけ多くの時間をかけて物事を深く考え、祈られたかがよく分かります。読み終えて非常に感心したことは、こうした怒りのテーマは、場合によっては自分自身を見失い、鬱的になってしまいそうなものですが、それこそ本当に信仰、みことばによって、もう一度立っていくところです。
キリスト者であるなしに関わらず、社会の中で平和を作り出そうとしている方たちと一緒に読んでみたいと思いました。神に似せて造られた豊かな人間性に与えられた感情の「怒り・憤り」も共有しながら、そこで神の義を求めてともに働きつつ、一緒に読んでみたいものです。