ブック・レビュー クリスチャン夫婦にとって
これまでにない待望の書


吉田博
公益財団法人 早稲田奉仕園 専務理事

書評を書くにあたって、カソリックの曽野綾子さんの『人間にとって成熟とはなにか』(幻冬舎新書、二〇一三)が思い浮かんできた。四十万部のベストセラー。書店で平積みにされている。最近、「成熟」をタイトルにした本が目立ち、一時の「品格」ブームを思い出す。「成熟」は、私にとって一つの目標でもある。ポール・トゥルニエの『人生の四季 ~発展と成熟』(日本基督教団出版局、二〇〇七)からきている。以来、「成熟」「インテグレート(統合)」「インテグリティ」といったタイトルの本があると手が伸びる。
唄野隆、絢子夫妻の『夫婦の成熟を求めて』は、これまで読んだ本とは、内容が全く違っていた。一般の本では、どうあるべきかという〝理想像〟があり、そうなるためにどうすべきかを述べている。視点も「自分」が中心であり、自律・自立し「大人になること」を求めるものである。
だがこの本は、単なる人間としての成長にとどまることなく、お互いの弱さも語り合うなど、夫婦が正面から向き合い、人格的な交わりを通して、さらに、たましいの深いところまで正直に書かれている。
唄野夫妻の転機は、スイスのハンス(キリスト者学生会主事)とアゴ(精神科医)夫妻との出会いと、夫婦セミナーへの参加であったという。そこには臨場感あふれる二人の会話があり、「虎と羊の事件」などを通して、典型的な日本人男性が少しずつ変わっていく姿に親しみを感じた。その後の夫婦の成熟を求めての旅路を経て、隆氏の第二の定年を契機に、成熟を求める夫婦の同伴者になる召命が与えられ、二人で夫婦セミナーを開くことになる。そこに参加された夫婦が変えられていくようすも興味深い。
八章からなっており、どこから読むこともでき、大変読みやすい。また、最後にふたりで向き合うための豊富な材料も資料としてあり、もうすぐ「高齢者」に仲間入りする私たち夫婦にも、大切な一冊となった。