ブック・レビュー ケアの本質は
人と人との出会いから

 『医療の心、福祉の心 』
賀来 周一
キリスト教カウンセリングセンター相談所長

こんなお医者さんに診てもらいたい、こんなソーシャルワーカーさんの世話になれたらとの思いにさせる本である。その思いになるのは、随所に人間そのものを愛する思いが溢れているからである。つまり、病気よりも「病人」が、困っていることより「困っている人」が主役となり、そこから「人」が心の底から求めているものは何か、またそれに応える側としての治療者や援助者は、何をもって治療や援助の原点とすべきかが浮き彫りにされる。
長年にわたって医療と福祉の臨床活動と教育にあたってきた著者であればこそ見えてくる人間へのまなざしがここにある。評者は、かねがね人を相手に仕事をする人は専門家として何を提供するかは当然のこととして、専門の知識やわざを受ける側では、「誰が」提供してくれるかに関心があると主張してきた。まさしく、本書はその「誰が」に焦点をあてて書かれていることに感銘を受けた。
しかも、その焦点のあて方は、治療や援助にあたる者からの視点というより、患者、そして入所者から何を学んだかという謙遜な態度にある。彼らが何を求めているかを知って、医療福祉の従事者もどうあればよいかを学ぶ。そこにあるものは、同じ目線で当事者同士を見る目である。
一例をあげると、著者は「人はいちばん言いたいことが言えない構造をもっている」と言い、「二番目に言いたいことしか、人に言えない……」と星野富弘の詩を引用して、ほんとうのことは上から目線では聞くことはできないのだと自らを省みるのである(六三頁)。これなどは、医療福祉の分野で働く人には大切なことであろうし、聴くことを重視する心理相談の分野に身を置く評者にとってもっとも教えられたことであった。
本書全体に流れるこうした態度は、人を相手とする医療や福祉の世界に不可欠な要素であろう。そこから、たとえ病気は癒えず生活の問題はなお残ろうとも、このお方に会えてよかったとの安心感が与えられ、明日へ生きる勇気が湧いてくるに違いない。