ブック・レビュー フィリップ・ヤンシー来日講演集 痛むとき、神はどこにいるのか

 『痛むとき、神はどこにいるのか』
中島恭子
保守バプテスト同盟 ふるさとキリスト教会浪岡チャペル牧師

息子が三歳のころ、海外の大きなトンネル事故がニュースで流れました。「ママ、あの人たちは神様を信じていなかったから、あんなことになったの?」そう聞かれ、私は答えることができませんでした。
3・11東日本大震災―過去に例を見ない未曾有の大災害。私は子どもたちを連れて、かつて遣わされた宮城の地を巡り歩きました。うずたかく積まれた瓦礫の中、緊急車両が往来し、リュックを背負った人々が黙々と足早に歩いていました。やがて海沿いに出た私たちの前に、信じられない光景が広がっていました。あの日、「なぜ?」という思いが、多くの人々の心に重く響いたことでしょう。
本書は、今年三月に被災地を訪問したクリスチャン・ジャーナリスト、フリップ・ヤンシー夫妻の講演集です。ご夫妻の被災された方々に寄り添う優しさが随所に溢れ、翻訳のわかりやすさもあり、思わず一気に読んでしまいました。「イエスさまは……ただ彼らといっしょに涙を流されました」(一七頁)
私は、痛みを負う多くの人々との出会いを通して、クリスチャンには、時として、答えをすべて知っているかのような錯覚で物事をとらえてしまう弱さがあるのではないだろうか、それゆえ、痛む人々とともに歩むことが苦手なのではないだろうか、と思うことがあります。
本書を読んで、私たちが不条理の中で痛むとき、神はどう感じておられるかが、イエス様を通して示されていることにあらためて気づかされました。「神は『リサイクル』―作り直すお方」(二四頁)。主の十字架と復活により、新たな創造をされるお方であり、私たちに真の希望を与えてくださるのです。
人生には「なぜ?」と問いかけても、答えを見いだすことができない苦難があります。読み終えた後、これから長い人生を歩んでいく三人の子どもたちにプレゼントしたい! と思いました。重いテーマにもかかわらず、読んだ後、気持ちが和らぎ、心が平安で満たされました。痛みある方に、すべてのクリスチャンにおすすめしたい一冊です。

『痛むとき、
神はどこにいるのか』
フィリップ・ヤンシー来日講演集
鈴木茂、新美幸子 共訳
四六判 945 円
いのちのことば社