ブック・レビュー ロイドジョンズ
ローマ書講解 8・5―17 神の子ら


関野祐二
聖契神学校校長

聖書を誤りなき神のことばと告白し、福音主義を標榜する私たちは、それに見合うほど徹底的に、また本気でみことばと福音を生き、神の子どもである特権を喜び、聖化にコミットして聖霊の導きと満たしを求めているだろうか。
読者にそう問いかけて止まない本書は、英国の説教者D・M・ロイドジョンズが、一九五五―六八年にロンドンのウェストミンスター・チャペルで語った〝二十世紀の記念碑的講解説教〟と称されるローマ書講解全十四巻のうち、一九七○年より発売されたローマ3・20―8・39の六巻セットの第五巻。パウロ書簡の最高峰ローマ書、しかもその核心部分を一節ずつ詳細に説き明かした本シリーズの邦訳は二○○八年より刊行が始まり、あと一巻で全六巻が完結する。
本巻は扱うテキストが8・5―17と最も短いわりには、これまでで最も分厚く、著者の思い入れが深い箇所だけに、読み通すのにも覚悟が要る。一回四十五分という三十三本の説教は連続講解のため、拾い読みせず、前から順に読んでこそ、同じテーマをくり返し追いかけるバッハのフーガに似た、たたみかける重層的メッセージの妙を味わえる。
聖化の教理について著者は、聖霊のバプテスマを受けると完全に罪から解放されるとの「完全主義」や、罪との葛藤を主に手渡すなら主が代わって勝利してくださるとの「対抗の原理」を断固否定し、罪から実際に離れる聖化への参加を促す(一九一頁以下)。そのうえで14~16節の講解に十九回の説教を費やし(二九五頁~)、子としてくださる御霊を受けることこそ救いの確信であり、聖霊をもってのバプテスマなのだと主張する。異論もあるテーマだが、著者の迫力と徹底した論証に圧倒され、口をつぐまされる。
気になる箇所を時折、原書と比較したが、翻訳は極めて丁寧で正確、しかもこなれており、ロイドジョンズ節をたっぷり堪能できる。半世紀前の毎週金曜日、偉大な説教者が発した吠えるような聖書講解を、ただの記念碑とせず、一頁ずつ心の目で味わい、聖化と御霊への渇望が与えられるよう、本書を心よりお薦めする。

『ロイドジョンズ ローマ書講解 8・5―17 神の子ら』
D・M・ロイドジョンズ 著
渡部謙一 訳
四六判 6,000 円+税
いのちのことば社