ブック・レビュー 不安な状況の中で、希望を手にするために
上野 五男
ロサンゼルスぶどうの木国際教会牧師
非常に爽やかな清涼感とともに、平安を与えられた。最初から最後までバランスのとれた健全な聖書理解に基づいたメッセージがつづられているからである。
世の終わりが近づくと、偽預言者や偽キリストが人々を惑わすようになる。教会の中でさえ、健全な聖書理解から外れた教えが説かれている。米国のプロスペリティ(繁栄)神学もその一つである。祈りと献金によって、神は必ず病気を癒し、富を与えてくださるという教えである。このような考えが、聖書の語る福音であると誤解している多くの人たちがいるのを非常に残念に思う。この神学によれば、「順風だけがよし」であり、「逆境もまたよし」ではない。
だが、佐藤師は「苦労して、ときにはつぶれ、辛酸をなめる経験を通して、しばしば人は強くなり、知恵を身に付けるのです」(六八頁)と言う。まさにアーメンである。人間は、痛みや試練を通して、神から取り扱われ、高慢を打ち砕かれて、成長していくのである。神は私たちの人生に順風を吹かせ、また、逆境を与えることによって、神の最善と人間の生きるべき道を教えてくださる。これは、聖書の中に登場する多くの信仰者を見ても然りである。
このことを頭では理解しても、人間は弱いものなので、実際に困難に遭遇すれば不安にかられてしまう。佐藤師は「先のことは主にゆだねて、そうなったらそうなったで主がなんとかしてくださる」(四八頁)と励ましてくれる。我々が肝に銘じておかなければならないのは、将来を見越して安心する生き方ではなく、不安な状況の中にあっても、神が一緒におられるので大丈夫だと信じて前に向かって着実に歩む信仰である。本書が世に出る直前に、東日本大震災が起こった。佐藤師の牧会している福島第一聖書バプテスト教会のホームページで、震災後の礼拝メッセージを聴いた。まさに「逆境もまたよし」のごとく、試練の中でも神を信じて前向きに生きる励ましのメッセージであった。
地震、津波、原発事故などの不安な状況に生きている現代の日本人にぜひ読んでほしい珠玉の一冊である。