ブック・レビュー 人生の意義と真の知恵を追求して

『日の上からの知恵 』
熊谷 徹
日本同盟基督教団 茅ヶ崎同盟教会牧師

「伝道者の書(コヘレトの言葉)」の鍵となる言葉は「日の下」と「空」である。「日の下の知恵によっては人生の空を解決することはできないのだ」ということを、人生の諸事万端を見つめて解き明かそうとした書物である。本書の『日の上からの知恵』というタイトルは、その鍵語「日の下」をふまえたものと思われる。
著書は、「伝道者の書の目的あるいは主題は、『人生の最高の幸福は何か』『意義ある人生とは何か』の探求であり、その秘訣は『日の下の知恵』ではなく、『日の上』におられるお方を認めることにあります」(二九頁)という。
本書の最大の特徴は、「聖書の御言葉そのものに聞く」という姿勢で貫かれているという点にある。旧約学者である著者は、しばしば旧約聖書に言及し引用するが、それらの箇所は実際に聖書を開いて読むべきである。日本語訳では伝わりにくい原文の微妙な言い回しや、解釈の分かれる難解な箇所についても、原語からわかりやすく説明している。本書はサラリと読み通すという本ではなく、実際に「伝道者の書」を開いてジックリと読み進めるべき本で、中味は濃い。限られた紙数の中に、これほど豊富な内容を盛り込まれた著者の労に感謝したい。人生の意義と真の知恵を追求せんとした「伝道者の書」を学んでみたいと願うすべての人におすすめしたい好著である。
著者は、元・神戸改革派神学校旧約学教授で、現在は日本キリスト改革派教会引退教師、「ティンデル聖書注解シリーズ」の監修者として活躍しておられる。その温厚で誠実で謙遜な人柄には、信仰と学問とに裏打ちされた何とも言えない魅力がある。
「伝道者は、信仰に導かれた自分の人生の喜びを告白しています。……その知恵は、『神を恐れて生きる人生』ということです」(一二二頁)という言葉は、そのまま著者自身の告白でもあるのだろう。