ブック・レビュー 作品への理解が深まる必読の一冊
宮嶋裕子
三浦綾子 初代秘書
『氷点』入選のとき、三浦綾子さんは自分はクリスチャンであり、原罪をテーマに書いたと語った。「神様の愛を伝えることができますように」と一年がかりで祈りながら書いた作品である。それを、護教文学であり文学として劣るものであると非難する人々がいた。
本書の導入部分で著者は、この批判について綾子さんが書いた次の文章を紹介している。「わたしの場合、護教文学かもしれない、宣教文学かもしれない。……そのことを充分承知の上で敢えて、わたしは今まで書き続けてきた」(二三頁)と。綾子さんは、どんなに批判されても「神様の愛を伝えるのでなければ、わたしには書く意味がない」と言い、全ての作品で聖句や信仰にふれた。
書き続けて二十一年が経ったとき、エッセー集『ナナカマドの街から』(一九八九年、角川書店)が出版された。この本に、ひとりの高校生が出会った。竹林一志さん、本書の著者である。後に竹林さんはクリスチャンとなり、現在大学で三浦綾子作品の講義をしておられる。「三浦文学の恩恵を受けている者として、私も、三浦さんのメッセージを一人でも多くの方々に伝え続けていきたいと思います」(一九〇頁)と語っている。護教文学と批判を受けながらも、祈りとともに書き続けた綾子さんの思いが受け継がれている事実に、感動を覚える。
『氷点』という作品は、人の心を小説の世界に引き込む強い力を持っている。さまざまな登場人物の描写や、ストーリー展開の面白さに誰もが夢中になってしまうが、そこには綾子さんの心を込めた多くのメッセージが織り込まれている。本書は、綾子さんが伝えようとしたことを見事に紐解いていく。『氷点』を何度も読んだ私も、新しい発見や気づきの連続であった。『氷点』を手に取ったばかりの方にも、長年のファンの方にもぜひお薦めしたい。さらに、この作品への理解が深まることだろう。『氷点』入選五十年のこの年、必読の一冊である。