ブック・レビュー 公立学校の中で、現実社会で、信仰に生きる―
木村葉子
ウェスレアン・ホーリネス教団 浜松ウェスレアン教会牧師
毎年、卒業式や入学式の季節になると、「国旗・国歌」で騒然となり、「不起立」で処罰を受ける教職員が出ます。特に、クリスチャンを理由に起立できないという教員には、なぜと疑問に思う方もおられるでしょう。 “キリスト教の印象が悪くなるし、政教分離なのだから、クリスチャンは政治に関わらないのがよいのではないか”と心を痛める方、“事を荒立てずにクリスチャンらしい良い解決方法を”と、祈っておられる教会員や牧師も多いことでしょう。
分かり難い、しかし避けて通れないこの問題を整理する良書ができました。昨年大阪市では、橋下徹市長の指示により、公立学校の教職員に君が代の起立斉唱を義務付ける条例が成立し、三回違反で解雇免職と決められました。本書はその「大阪の君が代条例可決に抗議する声明」を契機に、諸教派・教団で開催した三回の「君が代強制反対キリスト者の集い」で語られた証言と講演でつづられています。
東京でも十年前、石原慎太郎元都知事のもと、国旗国歌の通達が出され、処罰された教職員は、現在までで四百四十名以上にも上り、処分不当を訴える教職員たちの裁判は二十七件以上になります。私も、元都立高教員の被処分者です。この十年間で都公立学校は、監視と統制で激変し、交友、協働、創意工夫のさわやかな自由の精神は潰されてしまいました。教員も生徒も多忙と孤立化に苦しみ、若年退職者も多いのです。
「君が代強制」は、公立私立校とも、国の教育を決め、縛る道具としてますます機能しています。歴史観、天皇制、国家観、思想良心や信教の自由とも広く複雑に関係している大問題であり、多くの人の広範な対話と熟慮、忍耐強い解決への取り組みを必要としています。
本書は特に、教会の神社参拝、君が代斉唱、戦争翼賛の負の歴史を今の世代の教会が受け止め、編者の願い「信仰の根幹に関わる霊的問題」について吟味し、分かち合う、教会や神学校での対話のテキストとしても有益な構成です。また、証言者の信仰の成熟、聖霊の働きの証言も、用いたもう主なる神の真実と恵みを示され、とても感動的でした。