ブック・レビュー 創世記のトーレドート
小林和夫
東京聖書学院名誉院長
鍋谷先生の『創世記を味わうⅢ』が出版されたことをうれしく思います。それにしても、かなりのスピードで本書が出版されたことに敬意を表します。
内容については、「たった一言の『トーレドート』をめぐって」「人間はどのようにして造られたか」「四つの川」「神のことば、最初の説教壇」「ふさわしい助け手」「イーシュからとられたイッシャー」「家族の根元的な意味」とあるように、重要な創世記のはじめの部分が深く味わわれていることを見ることができます。いずれも大切なトピックですが、評者は、「たった一言の『トーレドート』をめぐって」を特に興味深く読ませていただきました。
トーレドートは物事の経緯、由来、記録、歴史、家系、系図などを意味することばであり、創世記は、ただ一枚の平凡な板ではなく、十三のうちの十のトーレドートで区切られています。「創造の経緯」「アダムの歴史」「ノアの歴史」「セム・ハム・ヤペテの歴史」〔ノアの子孫の系図〕「セムの歴史」「テラの歴史」「イシュマエルの歴史」〔生まれた順の名〕「イサクの歴史」「エドムの歴史」〔エドム人の先祖エサウの歴史〕「ヤコブの歴史」です。
このつづり合わされたトーレドートは、少なくとも出来事や人物の流れを一つのこととして描き出そうとしています。アダムからヤコブまでが一続きの歴史の流れであることが表現されているのです。これは、いわゆる救済史と言われる歴史の枠になっているということです。その内容は、上からの神の語りかけと下からの人間の応答でつづられています。
マタイの福音書のはじめに「アブラハムの子孫、ダビデの子孫」とありますように、イエス・キリストの系図も、トーレドートの形式を踏んでいます。
読者はトーレドートを研究し、味わってみてください。神学的にも、聖書的にも興味深い研究が満載されているこの本を、ぜひ一読なさることをお勧めします。
『創世記を味わうⅢ
創世記2:4ー25』
鍋谷堯爾 著
飛鷹美奈子 協力
四六判 1,890 円
いのちのことば社