ブック・レビュー 危機的状況下における対話の重要性


正田眞次
学座・とうごまの葉の下代表

本書は、二〇一三年七月二十日、参院選前日「クリスチャン新聞」と「キリスト新聞」が共催し、明治学院大学キリスト教研究所等が後援して開催した緊急シンポジウムの報告集である。
前年の衆院選で誕生した第二次安倍政権は、経済政策を前面に押し出して、第一次政権から安倍氏が訴えてきた「戦後レジームからの脱却」すなわち自主憲法制定を着々と進めつつある。単なる憲法九条「改正」にとどまらない、二〇一三年が「この国のかたちを根底から転換しようとする」危機的状況下にある、との両紙の問題意識が開催を実現した。
パネリストは四名。都立高校教員の岡田明氏は、都教委の問題二つを指摘。ある出版社の日本史教科書の採用、教師に服従する人間づくり「都立高校生ルール(仮称)」作成である。日本キリスト教協議会教育部総主事の比企敦子氏は、「天皇中心の勤皇民族史観」とも言うべき歴史教科書に統一した横浜市の現状を紹介して、マイノリティーの心の自由を教育現場で尊重する大切さを語った。明治学院大学教授の渡辺祐子氏は、キリスト教会における対話の欠如とレッテル貼りが、教会内外の歴史認識の問題、戦争責任の問題の深化を妨げている、と分析。日本同盟基督教団牧師の朝岡勝氏は、「信じること」と「生きること」を分離させず告白する信仰の重要性と、メジャー意識に憧れて波風立てず「市民宗教」になろうとする危うさを述べた。
四名の発言を受けたディスカッションが続く。どれも重みのある内容で傾聴に値する。筆者は、渡辺氏の対話と「話し方、語り方という技術的な側面」の重要性の発言に共感した。
けれども、あえて企画者に提案したい。副題の中に「教育」の視点からとあり、内容を教育に絞ろうと意図したのか、パネリストはみな「教える」仕事の従事者だ。「この国はどこへ行くのか」が本題なら、政治家や経済人も必要だ。様々な事情もあろうが、テーマはとても大きい。他の業種や地方在住者も交えた再度の企画を期待する。