ブック・レビュー 地域社会における
教会の姿勢を問う


藤掛 明
聖学院大学 准教授

私は、よく漫画「妖怪ウォッチ」の持つ治療力の話をする。たとえば妖怪「ドンヨリーヌ」はその場の空気を悪くする力を持っている。本来夫婦仲の良い両親が喧嘩をするのもこの妖怪の仕業なので、子は親の心配をする必要がないという具合だ。このように、あたかも別の問題者が外在すると考えることによって、現実を冷静に受け止めるようにすることを「外在化」と呼び、今どきのカウンセリングでは、有力な治療方策となっている。
この外在化の最高の実践例として、私は、向谷地生良先生の「べてるの家」がまず思いつく。たとえば、幻聴に苦しむ人が、それを「幻聴さん」と呼び、うまくつきあう方法を考えていく。鮮やかな実践である。また、自分でユニークな病名をつける「自己病名」も素晴らしい。そしてきわめつけは、そうした自助の活動全般を「当事者研究」と呼んでいることである。学習でなく、研究としたあたりも力を感じる。ただ、こうした活動を、ソーシャルワーカーとして最新の技法を駆使したものと評価するなら大きな間違いである。もっとユニークであり、オリジナルだからである。本書も実に濃い内容である。
第一の特徴は、上述した実践の全体を短い文章で濃密に紹介していることだ。実に五十以上のトピックのもと、具体的なエピソードを引きながらコメントが続く。濃密すぎて消化に時間がかかりそうな場合は、「誤作動」「石ころの原理」など自分の心に響く言葉を拾うだけでも十分意味がある。第二の特徴は、「教会」の役割に言及していることだ。そこには具体的な助言もあるが、それ以上に本書の持ち味は、地域社会における教会の姿勢を問うていることである。すなわち、地域で苦しんでいる人たちの現実を、教会の現実として共に苦しむことであり、そうした課題は教会が教会であり続けるために与えられたものであると。
本書は、「精神障害と教会」に関心のある方はもちろんのこと、自分の弱さと真剣に向かい合おうとするすべての人にお薦めしたい。願わくば、妖怪「あとでヨメバイイ」の攻撃から守られますように。