ブック・レビュー 子どもたちを育むキリスト教教育のこれから

 『今日のキリスト教教育の可能性を問う  』
小暮 修也
明冶学院高等学校校長

本書は、玉川聖学院六十周年記念シンポジウムを基本的に再現したものであるが、そのテーマは一学院を超えて、今日のキリスト教学校の求める普遍的な内容である。司会の同校水口洋氏と、国際協力、医療、福祉、教会の第一線で活躍している四人の発題から成っている。
ワールド・ビジョン・ジャパン事務局長の片山信彦氏は、今、世界で約三秒に一人が、防げる病気で亡くなっている現実を直視し、人類全体が直面している問題に立ち向かう人材をキリスト教教育から輩出してほしいが、そのためには、神様との関係、人との関係、社会との関係という三つの側面における世界観と人間観の確立が必要であると語る。
児童精神科医の田中哲氏は、今の子どもたちは生活・情緒・社会性・対人関係・倫理性などにおける基本的な「枠」が崩れてきていると指摘する。子どもたちの基本的な枠を形作るためには、愛による内側の枠が必要ではないかと指摘するが、これは重要な指摘である。
社会福祉法人新生会理事長の原慶子氏は、新生会ワークキャンプで高校生がお年寄りと触れ合い、そこに命の輝きを見つけ、自分を発見していった感動的な出来事を語っている。社会福祉の現場でも、学校教育の現場でも、営利主義、実績主義、数値に振り回され、スピリチュアリズム(精神主義)が失われていると語り、再度「神の愛」を原点にした社会づくりの必要性を訴えているが、全く同感である。
牧師である藤本満氏の発題では、ミッションスクールと教会がなお一層、相互補完的に宗教的使命をもって福音宣教と人格形成に携わることの必要性を説いている。
私自身、キリスト教教育の核心は何か、キリスト教教育の可能性は何かということについて長い間考え続けてきたが、本書はそのような問いに多くの示唆を与えてくれるものであり、このような本が出版された意義は大きい。今後、本書の提起を基にして、現代のキリスト教教育の可能性を深めてゆきたい。読みやすい本なので、キリスト教学校の教育に携わる方、教会教育に携わる方、そしてそれらを支える多くの信徒に読んでほしいと願っている。