ブック・レビュー 小さな美しいことばの花束

 『ひと言でいいのです』
後藤敏夫
余市惠泉塾

本書は、新しい世代の女性牧師によって編まれ、著された小さな美しいことばの花束です。
全体は「わたしを生きる」「あなたと生きる」「ここに立って」「天を見上げて」と四つのまとまりに分けられ、右頁に大きめの活字で「ひと言」がそっと置かれ、編著者がその「ひと言」への「返歌」のように思いを込めた小さな文章をそこに添えます。四つの花壇のようにも思える各部の最後にはひとつの詩が置かれ、一本一本の花をまとめて、その花々の香りを、人がこれから歩む道にします。古今東西の名言を集めた本は、キリスト教書にも少なくありませんが、この本には格別な香りがあります。まず、有名人のことばだけでなく、名も知れぬ人のため息のような一言にも細やかな愛情が注がれていること。クリスチャンだけでなく、神を信じない人のことばにも耳を傾け、神の語りかける声を聴き取っていること。
そして何よりもここに集められた小さなことばたちは、編著者が歩まれた道端や野原で摘んだ、いやきっと人生の試練に何度も耕され、涙を注いだ彼女自身の心の花壇で育ち、そこで大切に摘まれた花々なのでしょう。どの「ひと言」も、編著者のいのちの息から出た「返歌」によって心身を持った物語として立ち上がり、私は読みながら何度か涙しました。
そのように心にしみ、身体に響くだけでなく、この本は心の窓を広げてくれます。
編著者は女性であり、牧師であり、霊性の神学とキリスト教倫理学を教える神学校教師でもあられるようですが、そのすべてが深く柔らかな香りに溶け合い、心の窓は社会的なながめにまで広がり、いよいよやみが深まる世界に、確かな愛と希望の光をともしてくれます。
自分一人で読むにも、クリスチャンに限らず贈り物としても最適な本です。また、「ひと言」と編著者の「返歌」をめぐって、少人数で語り合ってみたいとも思わされました。この本を手にしたら、まずは帯を外してください。外も内も、慎ましく美しい装丁とカットで飾られています。