ブック・レビュー 新版『良き生と良き死』
平山正実
北千住旭クリニック院長
患者さんから得た生きるための知恵をクリスチャンのホスピス医が語る
柏木哲夫先生は、精神科医として出発。淀川キリスト教病院でホスピスを開設し、大阪大学教授を経て、現在、金城学院大学学長の要職にある。またホスピスの啓蒙普及のために、大きな働きをされてきた。そして、何よりも先生は熱心なクリスチャンとして、臨床や教育の現場で立派な証しを立てておられる。本書には、先生のキリスト者としての生き方、考え方が率直に述べられている。とくにこれまで看取った約二千五百名の患者さんから得た生きるための知恵が、わかりやすく記されている。
著者は、長年にわたるホスピス医としての経験から「人間は、生きてきたようにしか死ねない」「人は生きてきたように死んでいく」「良き生というのが良き死につながる」と述べている。これらのことばは「今」を生きるわれわれに、一瞬一瞬を真摯な生き方をするよう教えている。
また、老いについても、鋭い洞察が加えられている。すなわち、老いは、決して否定すべきものでも悲しむものでもなく、成熟、成長の時期であると述べる。たしかに、老人はこの世につながれているくさりを少しずつはずし、自らの限度を超えて思い上がることなく、生きるべきであろう。しかし、先生は、死の直前まで人間は完成を目指して成長することができるとし、その例として、死に向かいつつある状況の中で、重要な救いの「時」を提供する臨床牧会の重要性を強調している。その一つの例として死の床に臨んで信仰を持たれた患者さんのケースを紹介している。
先生は、自分のホスピス活動を通して、「どのような人が良い人生を送ったと思っているか」という問いに対して、「自分は、守られ生かされている存在なのだ」と自覚している人こそが、充実した気持ちで死を迎えることができると述べている。
この本を読んでいると、著者の生き生きとした信仰が、読む者に強く迫ってくる。ぜひ、一読をお勧めする。