ブック・レビュー 福祉と福音の接点
著者の木原活信氏は同志社大学社会福祉学科教授であり、キリスト教の立場からの福祉について造詣が深い研究者である。一般向きにとても分かりやすい入門書を著された。
ご自分の名前の“活信”の由来の証しとも関係し印象的であったのは、母親の出産時の危機に遭遇して(八四頁)、人が生きて「ただ存在すること」(being)こそが「役に立つこと」「能力」(doing, having)に勝って福祉の真髄となる、そしてここはまさに聖書の人間観の基本と重なる(二六頁)ということである。「弱さ」「居場所」「支援」「社会的包摂」などの現代福祉の用語が聖書のメッセージを織り交ぜながら説明されていく。読者は福祉と福音の接点(ないしは同根性)を多く学べるが、特に今日的に重要な二点を紹介したい。
一つは「承認欲求」である。社会的孤立の強い今の時代の日本は、若者でも自己肯定観が弱くなっている。自尊感情が育たない、他者からの承認が得られない。しかしこれはしばしば語られるように心理学の課題というよりも、本来の承認とは、まさに神との出会い、主イエスを通して“ありのままの自分を受け入れる”、これこそが福音が説いてきたことにほかならない(六五頁)。
もう一つ、日本の福祉には教会が教会としてかかわらなければならない公共的な面が出てきている。戦後のいわゆる福祉国家的な公的責任の下でやってきた時代には、キリスト教的価値を寄せつけなかったのだが、今ここからの脱皮のチャンスが到来している。つまり、二〇〇〇年以後の福祉の基礎構造改革による、制度面の大きな変化である。保護救済的な国家主導の福祉から、「新しい公共」と称される利用者とサービス提供者の対等な契約に基づく市民的福祉へと改革されてきたからだ(一六六頁)。
実は評者もこれをずっと主張してきたのであった。ぜひ、本書が掲げる聖書的メッセージが、その福祉制度の変化を視野に入れていることを読み取って頂きたい。それに気がつけば、日本の教会は質と量において大きく成長していくであろう。福祉と福音はまさに隣り合っているのである。