ブック・レビュー 読者レビュー 『生きる』
松原 知美
日之出キリスト教会会員
神と共に歩む者には、苦しみと向き合って苦しみから学ぶ力が与えられ、苦しみは宝に変えられていく……
「どうして神は、こんなにも大きな苦しみを彼に与えるのだろう…」と、「生きる」を読みながら私は何度も思った。ハンセン病による肉体的苦痛、家族や故郷との別離、社会からの差別や偏見……。希望が見えたと思ったら、また絶望の谷に投げ込まれる。それでも彼は、苦しみの中で出会った神を信じ、自分の歩幅で前へと歩いていく。谷川秋夫氏の苦しみを負う姿はどこか、私たちの罪を代わりに負って十字架につけられたイエス・キリストの姿に似ている。谷川氏の苦しみに満ちた人生は、私の心に痛みを与え、そしてそれ以上の感動を与えてくれた。目の前に広がる景色を美しいと感じるとき、なぜ美しいのかと問う必要性がないように、彼が乗り越えてきた苦しみが、私たちの心を潤す光となり得た今、ただもうそれだけで十分だと、苦しみの意味を探らなくてもいいのだと思えた。神の摂理の深さを改めて思った。苦しみに遭ったとき、人は早くその苦しみから逃れたいと思う。苦しみから目を背け、あらゆる方法を探り、そしてどうにか逃れることができても、苦しみは苦しみという形を留めたままである。しかし、神のうちで神と共に歩む者には、苦しみと向き合って苦しみから学ぶ力が与えられ、苦しみは宝に変えられていく。クリスチャンとして歩むなか、苦しみが与えられるたび、私はその確信を深めてきた。
『生きる』を読み終えたとき、「神から受ける慰めによって、どのような苦しみの中にいる人をも慰めることができる」という第二コリント一章四節の御言葉が心に響いた。谷川氏の味わった苦しみは、彼自身のうちで宝に変えられただけでなく、遠く離れた私の心を照らす光ともなった。そして与えられた光は、私が歩んでいく力へと変えられていく。神に信頼し、苦しみを乗り越えてきた谷川秋夫氏に、私は心から「ありがとう」という言葉を伝えたい。