ブック・レビュー 隠れたものを見せてくれる一冊
『「境界」、その先へ
―支援の現場で
見えてきたこと』
佐々木真輝 著
A5判 900 円+税
いのちのことば社発売
「ほんとうに信頼できる人間には会う必要がない。」震災時に出会い、実感した言葉です。危急なとき、離れていても「彼は今きっとこうしているはずだ」という信頼を表す言葉です。著者と実際に会ったのは、震災後三年を経た今年に入ってからですが、断片的にその働きは耳にしていました。この本を読んで、「やっぱりそうだった!」それが率直な印象です。
震災が起こった直後、私は次から次へ伝わるニュースに釘付けになっていました。責任のあった所属団体の諸教会の安否を確認し、支援態勢を整え、それと並行して東北の津波被災、原発から避難する教会の動きをともに担おうと東奔西走しました。そのとき、妻が「あなたおかしい」と言うのです。「あなたにはあなたに任された務めがある。それはここだ」ごく当たり前のことです。被災地も大切だが、ここも大切。ここも大切だが、向こうにも助けは必要。
ところが、目の前の多くのことに私たちは本質的なことを見失ってしまいやすいのです。震災で起きた様々な被災状況は目に見えて深刻です。しかし、隠れてはいても、気づかずに過ごしていても、見ないようにしていても、日常の中に様々な痛みや影、また格差とも呼ばれる境界、隔ての壁があります。震災はそれを見える形で私たちに見せつけ、露わにしました。
著者は岩手の三陸部の津波被災の支援を続ける一方、がんと闘病する奥様と向き合い、自らも痛みながら、人の心に寄り添うこと、ともに生きるとはどういうことなのか、神から与えられている慰めと希望は何なのか、いくつもの「問い」と向き合ってきたことを言葉にしてくれました。震災が問いかけたもの、それは決して遠く離れたことではありません。忘れ去ることもできません。しかし、時間の経過とともに日常が戻り、そこに埋没してしまいます。この本を通して、あなたも、隠れた見えないものと向き合う助けを得ることでしょう。