ブック・レビュー 21世紀ブックレット 21
『説教で何が語られてきたのか』
信州夏期宣教講座編
中村 敏
新潟聖書学院 院長
説教を通して日本の宣教の歴史を考察する
この本は、毎年もたれている「信州夏期宣教講座」の記録集第五集である。この講座がもたれるようになったのは、「日本の教会はこれで良いのか」という有志の方々の真剣な問いかけからであった。そして今まで日本の宣教を韓国、中国、沖縄との関わりの中で戦争責任の視点から問い直してきた。十年にわたるこの講座の役割や評価について、世話人の一人、渡辺信夫氏が本書の最後にまとめておられる通りである。今回の課題は、「日本のプロテスタント教会は、何を語り何を聴いてきたのか?」という、宣教の核心に関わるものであり、前書きにもあるように、大変な痛みを伴う作業である。まず、そのことに真摯に取り組まれたことに心から敬意を表するものである。
本書においては、まず植村正久、熊野義孝、富田満、小崎弘道、宮川経輝、海老名弾正、柏木義円という代表的な説教者の説教の特色が、それぞれの教派や神学的背景も含めて的確に紹介されている。
次に福音派の説教者として、戦後の日本の福音派に大きな影響を与えたビリー・グラハム、イムマヌエル総合伝道団の創立者蔦田二雄の説教が取り上げられ、説教が時代および、国家と無関係ではないことが鋭く考察されている。さらに聖霊の内住を強調したバックストン、ホーリネス運動の指導者である中田重治、車田秋次の説教について考察されている。概して聖潔派の説教の特色は、聖霊の内住や四重の福音を強調する主題説教であり、それは聴衆に深い感化を与えるものである。しかし本書においては、その反面それが聖書の扱いを片寄ったものとしたり、教会と国家の問題に不適切な関わり方を生み出したのではないかという、問いかけがなされている。
本書は説教を通して、日本の宣教の歴史を考察する上でも非常に啓発されるところが多く、一読をお薦めする。