ブック・レビュー 21世紀ブックレット33
『私の「愛国心」』

21世紀ブックレット33『私の「愛国心」』
高桑 照雄
中央日本聖書学院学院長

日本という国に誠実に向き合ってきた14人の証言集

 本書は、クリスチャン新聞に連載された「わたしの『愛国心』」をもとに編集されています。十四人の著者たちの背景は多彩で、公立校教師、元軍人、被爆者、在外日本人、在日コリアン、牧師など実に様々で、かつ多方面で活躍されています。共通する点は皆、キリスト者としてこの日本という国に誠実に向き合ってきたことです。悩み戦いながら国との係わりの中で自分史を証ししつつ、読者に問いかけます。

 国を愛するとはどのようなことなのでしょうか? わたしたちが素朴に思い浮かべる、生まれ育った郷土や同胞を愛することでしょうか。それを求める側からすれば、「国」とは人々を支配統治する組織体制、政府自らをも指すでしょう。

 そもそも「国家」という用語は「教育勅語」にいう、天皇を家長とし国民を赤子(せきし)とした「家族国家」観の概念や「忠君愛国」にもかかわり、さらには日本神話に基づくアマテラスの直系の子孫とされる現人神たる天皇の日本統治の絶対性を説く「国体」観念さえふくまれるのでやっかいです。政府の一連の政策の背景には、通奏低音のごとくに一貫してそれらが流れていると見るべきでしょう。キリスト者はこのようなやっかいな国といかに向き合い、神の愛を実践してゆくべきでしょうか。

 戦前回帰かと思わせる国家主義的傾向を強める国がその民に愛国心を強要する昨今、この本の著者の中には戦争を経験し生き抜いてこられた方も多く、特にその世代の貴重な証言に、わたしたちは心して耳を傾けるべきでしょう。十四人の簡潔かつ重い証言に、読者は一気に引き込まれ、読後には、この国の課題とこの国に生きるキリスト者の課題とが遥かに見えてくるでしょう。

 日本のキリスト者として召されたわたしたちは、天に国籍を持つ主の民としてこの国に遣わされている(二二頁)ことを忘れずに、十四人と共にこの日本という国に向き合ってゆきたいと願わされます。タイムリーな本の出版を喜びます。