ブック・レビュー 21世紀ブックレット36
『それでも主の民として』

21世紀ブックレット36『それでも主の民として』
信州夏期宣教講座 編

過去の失敗を繰り返すな

 日本の精神的土壌の本質への現実認識と洞察が欠かせない。本書は教会と国家の問題を日本教会史の具体例を挙げて日本の教会に過去の失敗を繰り返すなと訴える。日本の教会は歴史認識と現実認識を踏まえて、この国でどのように信仰告白をしなければならないかが問われている。

 本書では、一九三〇年前後に起こった美濃ミッション(岐阜県大垣市)の神社参拝抵抗とそれに対するキリスト教界並びに国家の対応を、石黒イサク氏(「美濃ミッション事件の検証」―現在へのメッセージ)と久米三千雄氏(「美濃ミッション事件」から学んだこと)が、史実に基づいて検証している。小学生が、神社参拝を回避したことから始まる美濃ミッション事件とは、いかなるものであったか、その神社参拝拒否に対して、他のキリスト教会、そして、国家は、どのような対応をしたか、克明に再現し、それが今日の問題と直結していることを示している。

 岩崎孝志氏(「国家神道」の成立と治安法によるキリスト教弾圧)は「国家神道」が成立する過程と、「治安法」によるキリスト教(宗教)弾圧の過程を再現する。

 登家勝也氏(教会の歴史的責任)と山口陽一氏(第一戒への責任)は、どうしてキリストを主と告白する日本の教会、特に日本基督教団が天皇を神とする国家神道イデオロギーと妥協して戦争に荷担したか、その歴史的責任を問う。山口氏は、冨田満統理の伊勢神宮参拝は教団の「生活綱領」(「皇国ノ道ニ従ヒテ信仰ニ徹シ各其分ヲ尽シテ皇運ヲ扶翼シ奉ルベシ」)の帰結であると述べる。

 戦後六十一年を経て、日本の国家は昨年末に教育基本法を改定した。また、憲法を改悪しようとしている。教育現場でも日の丸・君が代を国旗・国歌として「公然と強要する」時代になった。私たちは真実な信仰に立って、力を合わせて共に戦うことが要請されている。心あるすべてのキリスト者に本書を一読していただきたい。