リタと旅する。

連続テレビ小説「マッサン」は、初の外国人ヒロインを起用して話題となった。愛する人のため、百年以上も昔に、国際結婚をして日本にやってきた竹鶴リタ。彼女の人生を追うなかで見えてきた、信仰者としての姿とは。

四月。NHKの連続テレビ小説「花子とアン」がスタートし、主人公の村岡花子がクリスチャンであることから「最近のNHKはクリスチャンが主人公になること多いね」と教会で話題になっていました。確かに、新島八重、黒田官兵衛、村岡花子、と続いたのでそのように感じた人も多いと思います。そんな中、「花子とアン」の次の作品のヒロインは初の外国人!という情報を知りました。 

外国人というだけで、クリスチャンと考えるのは安易ではありますが……もしかして?という思いから主人公のモデルとなるニッカウヰスキー創業者夫妻について調べてみました。彼らの名前は竹鶴政孝、竹鶴リタ。およそ百年前に国際結婚をした夫婦でした。

政孝とリタの出会いは、本格的なウイスキー製造を学ぶためにスコットランドに留学していた政孝が、リタの弟ラムゼイに柔道を教えるためにリタの家を訪問したのがきっかけでした。時代は第一次世界大戦直後の一九一九年、リタはこの戦争で婚約者を亡くし、父親も急な病気で失ったばかり、大きな失意の中にいました。政孝は、志をもってスコットランドに来たものの故郷が恋しく、自伝の中では「毎晩枕を濡らして寝た」と記していたほどです。それぞれの心の隙間がお互いを引き寄せあったのでしょうか、ふたりは周囲の反対を押し切って、出会いから一年足らずの一九二〇年に夫婦となります。
竹鶴夫妻の出会いの経緯は分かっても、リタがクリスチャンであったという情報はまだありません。そこで、彼女について書かれた著書に手掛かりはないか探しました。すると、「教会で祈っていた」「神に感謝した」などの記述があるではありませんか。著者に問い合わせてみると、「この本は、ニッカウヰスキーの当時の工場長にインタビューして書いたものです。リタさんがクリスチャンなのは確かですが、本としては脚色も多く入っています」とのこと。脚色が多いということで、文字どおり受け取ることはできませんが、彼女がクリスチャンだと分かりました。そうと分かれば、彼女の信仰の歩みを追わないわけにはいきません。もし情報が集まれば本として紹介したい、と「竹鶴リタ本」の企画が小さくスタートしたのです。

リタの信仰を示すものはないかとニッカウヰスキーに問い合わせたところ、リタ愛用の聖書や十字架はあるものの、彼女が書き記したものがあるというわけではなさそうです。大もとに聞いて見つからないなら、関係しているところを一つひとつ当たってみるしかありません。

「お忙しいところすみません。私、竹鶴リタというニッカウヰスキー創業者の奥様について調べているのですが……」すぐに話がわかる人はほとんどおらず、「一体何のことですか」とキョトン。説明するのも一苦労、しかもリタの信仰について知りたい、などと尋ねたところで、ほとんどの人は分かりません。そんなとき、リタが通っていた教会が分かれば何かわかるのではないかと思い、探し始めました。
しかし、クリスチャンといっても、カトリック?プロテスタント?住んでいた場所は、スコットランド、大阪、鎌倉、余市、と複数の場所。一体どこから、どうやって探せばいいのだろう?と思いながらも、可能性のある教会に一軒一軒電話をかけました。予想どおり、ほとんどの教会は「うちの教会ではありません。まったく分かりません」というお返事ばかり。それもそのはず、リタが亡くなってからすでに五十年以上たっているのです。

「これだけ調べて分からないなら本にするなんて無理!あきらめよう!」と何度も思いました。しかし、そんなときは決まって電話が鳴りました。「もしもし、この間リタさんのことで電話をもらった○○ですが、私もあれから少し調べて分かったことがあるのですよ!」と気がつくと多くの方が一緒に調べてくださっていたのです。そんな出来事が繰り返され、これは続けなさいということかな……と感じました。

多くの方の協力のおかげで、通っていた教会が分かったり、竹鶴家の元お手伝いさんや竹鶴夫妻について研究している方に出会ったりしました。そこから分かってきた一つひとつのエピソードは何気ないことなのですが、つなぎ合わせていくときに、信仰者としてのリタの姿が少しずつ立体的になっていくのでした。

せっかく得られたこのエピソードをどんな形で本として作り上げていくのか編集部で考えていたときに、ちょうどすてきな旅のガイドブックに出会い、「リタゆかりの地を巡る旅の本」というアイデアが与えられました。

そうと決まれば、旅に出発です。急いでチケットを取り、まずは北海道。次は大阪。関東周辺のゆかりの地も幾つか回り……。振り返ってみると恐ろしいほどの強行スケジュールでしたが、すべての時間配分、取材が守られたのはとても不思議でした。そして、取材先の方々が快く協力してくださったことも本当に感謝なことでした。

この本の書名は、『リタと旅する。』に決まりました。この本を通して、リタの人生を一緒に旅していただけたら幸いです。きっとリタの涙や苦しみ、喜び、そしてどんなときも変わらない神にある希望を見つけてもらえると思います。
この本の制作に携わって、あきらめやすい自分自身の姿と、あきらめないで支え続けてくださる神の姿を対比させられたような気がします。神が導いてくださって完成した本であると自信をもってお薦めしたいと思います。ぜひ「マッサン」ブームに乗って、気軽に渡せるプレゼントとして伝道に用いてください。(フォレストブックス編集部、霜鳥爽香)

『リタと旅する。―日本のウイスキーの父「竹鶴政孝」を支えた妻』
フォレストブックス編集部
四六変形判 96頁
1,200円+税