ルケード大研究 『たいせつなきみ』との出会い
物語は年代・国境を越えて |
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作品から人柄まで徹底的に伝えます! |
ホーバード豊子
翻訳家
1998年春、私はアメリカ南部のアーカンソー州リトル・ロックに暮らしていました。ミシシッピ川下流にある「バイブル・ベルト」と呼ばれるキリスト教の影響が濃い地域です。
南部独特の湿った柔らかい自然の質感も、ようやく身体になじみはじめたころ、ある書店で私の目は”you are special”というタイトルにとまりました。深みのある色合いの表紙の中でも、目を奪われたのは彫刻刀でした。夫の趣味が彫刻だったので、まるで親しい友人にばったり出くわしたように、声に出したいような驚きがありました。
読み終えると、心はあたたかいもので満たされ、涙があふれました。そして神から無条件に提示されているこの愛を、日本の方々に紹介したい、と真っ先に思いついたのです。
翻訳に実際に取りかかるにあたり、原文に託された大切なメッセージをしっかり伝えられるように、また流れを止めることなく心に響く文を心がけました。とはいうものの児童書の翻訳の修業を積んでいたわけではなく、また日本語の読み物も限られた環境にあり、頼れるのは自分の内側の感覚の声で、自分が知っている世界や経験の中から言葉を引き出さなければなりませんでした。
『たいせつなきみ』では、優越感を持つことと劣等感に悩むことは、コインの裏表のようで、どちらも私たちを造られた方の思いとはかけ離れたところにあることが描かれています。この世の評価ではなく、ひとりひとりが神によって造られたユニークな存在であるがゆえに、愛されているということを知るというのは、何という幸いでしょうか。
本当に大切にしなければならないことや、そして自分自身さえ見失わせてしまうような、追い回されるように忙しい現代社会の中で、尊い愛のメッセージが一人でも多くの方に届けられるなら、訳者としてこれにまさる喜びはありません。