今を生きるクリスチャンに役立つ『リフォームド神学事典』 3人の監修者による対談 [2]
■読み物としての読みやすさも兼ね備えた訳文
- ―読みやすさということを意識されたそうですね。
- 村瀬
- 「読む人にわかるように」ということを、翻訳の監修作業を進めるなかで次第に強く意識するようになりましたね。
- 石丸
- 翻訳とは日本語なんだと思いました。日本語で普通に言わないようなことを言ってはいけない。翻訳者だけがわかっていて、翻訳になるはずはないのです。結果的に読みやすい文章になったのではないでしょうか。それに改めて、自分の常識が問われましたね。
- 望月
- 石丸先生がおっしゃられた常識というのは、普通の常識ではなく、神学的常識、あるいは歴史的常識なのです。これまで私たちが受けてきた日本の神学教育では、決定的に不足しているのです。私たち改革派教会でも、リフォームドの神学的な歴史の営みを、全体としてきちんと受け止めてきただろうと思ってはきたのですが、この本のように厳密にきちんと一つ一つを見ると、知らないことばかりで、ずいぶん不確かだったことがわかりました。
- 村瀬
- 自分が知っていた改革派とか長老派の伝統というものは、もっともっと豊かな広がりを持っているのだ、ということを改めて教えられました。
- 石丸
- 分野別索引項目一覧表は原著にはありませんでしたが、これを入れたのも使いやすくするための工夫でした。
- 村瀬
- これは石丸先生のアイデアで入れることになったのですが、広がりのある改革派伝統を系統的に勉強するのに役立ちます。
■「戦争」「平和」「正義」など、印象に残る項目の数々
- ―今日の世界の神学的な広がりをも視野に入れた内容が本書の特徴ですが、具体的にはどんなことですか。
- 村瀬
- 私がこの本を訳したいと思った一つのポイントが「戦争」と「平和」の項目なのです。そこを読んで、このように書いてあるならいいと思ったのです。戦争に対する代表的な見解を併記しながら、今日の核時代においては、戦争は否定されるべきものという方向づけがなされています。
- 石丸
- そういう意味では、歴史的な改革派の伝統をこの部分は超えていると思います。「民族優越主義」もそうですね。
- 望月
- そういう斬新さがなかったら、私も日本語にしたいと思わなかった。
- 村瀬
- これはすごく内容のある項目ですね。
- 石丸
- 「正義」も重要な項目です。この項目で感じたのは、やはり広がりと深みですね。それと公共性ということです。社会倫理の基本ですから。伝統に立ちながら、現今の諸問題に目を配る。これがリフォームドの根幹だと思いました。どう関わっていくのかということですね。
- 村瀬
- 私は倫理に関する三つの項目から教えられました。「神学的倫理」「社会倫理」、それからマックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理」です。非常に内容豊かで今日的です。こういう分野の理解は、福音派系の改革派・長老教会に欠けていると思います。神学校でも神学的倫理学はあまり扱われてないですね。
- 石丸
- この目配りというだけでなく、対話をしていこうという姿勢がこの本には出ていますね。
- 望月
- 現代の、どちらかというと反キリスト教的なものとの対話も含まれているのですね。
- 村瀬
- 「世界の諸宗教」という項目なんか、そういう内容がよく示されています。
- 石丸
- いわゆる伝統的な改革派神学というと、神の主権、聖書論から入っていきます。しかし、第二次世界大戦後のアメリカの長老教会の動向を見ていますと、キーワードが「和解」なんですね。和解ということは、やはり平和問題はもちろん、基本的な救い、被造世界との和解、環境問題といろんなことに広がっています。それを垣間見ることができるのが「一九六七年信仰告白」という項目なんです。これは和解を軸として書かれたものです。今話題になっている神学の広がりで、キリスト者が今の世界でどのように生きていくのかということも書かれています。
- 望月
- 信仰告白の面でも私たちの頭では「バルメン宣言」で終わっていました。ところがその後「一九六七年信仰告白」「簡潔な信仰声明」、両方とも訳しましたが、ああこういうものなんだと、戦後のアメリカの長老教会の教会形成の取り組みと、その関心というのがわかってきました。
- 村瀬
- 「一九六七年信仰告白」は日本でも紹介されたことを思い出しますが、それほど話題にはならず忘れられてしまったようです。