信仰の良書を読もう! 信仰の良書を読もう!(1)


山下正雄
キリスト改革派教会メディアミニストリー代表/ラジオ牧師

『羊飼いが見た詩篇23篇』

『羊飼いが見た詩篇23篇』

W・フィリップ・ケラー 著
舟喜順一 訳
B6判、1,785円
いのちのことば社
 「主は私の羊飼い」で始まる有名な詩篇二三篇を知らないクリスチャンはまずいない。しかし、放牧されている羊の群れを実際に見たことがある人は今の日本でそんなに多くはないはずだ。まして、羊とともに生活し、羊の生態をよく知っている人はほとんどいないといってよい。そんな私たちが読む詩篇二三篇の理解がどれほど薄っぺらなものであるかは想像するにかたくない。

 本書の著者フィリップ・ケラーは宣教師の家庭に生まれ、東アフリカで育った。長年羊飼いの生活を目の当たりにしてきたばかりか、実際に著者自身も羊の牧場主として羊とともに暮らす経験をしてきた人物だ。そのユニークな経歴だけでも、この人物が解き明かす詩篇二三篇が示唆に富んだものであることを物語っている。

 もちろん、本書は単に詩篇を理解するために羊や羊飼いに関する予備知識を提供する本ではない。また、学問的な意味での詩篇二三篇の注解書でもない。著者はイエス・キリストこそがまことの良い羊飼いであることを信じる立場で詩篇二三篇の深い味わいを示してくれている。本書のタイトルは『羊飼いが見た詩篇二三篇』であるが、それ以上にこの書物全体を貫いているのは「クリスチャンが読む詩篇二三篇」である。本書はキリストを主と仰ぐ者の信仰生活に多くの示唆を与えてくれる。

 著者は羊と人間との類似点として、私たちの集団本能、恐怖、臆病さ、頑固さとおろかさ、歪曲した習慣などをあげているが、それ以上に本書を通して教えられるのは、その人間に対する変わることのない主イエスの恵みと慈しみである。それはまた詩篇二三篇の結びの言葉でもある。

 ただ、本書を読んで思うことは、あまりにも現実の牧羊の話が入り込んできて、かえって詩の美しさを損ねるように感じることがないでもない。しかし、それでも、本書を読んで得る慰めと励ましには大きなものがある。