天国へのずっこけ階段 第1回 「37歳、独身です。」

松本望美
北朝鮮宣教会所属韓国在住

 韓国人との初対面のあいさつには、なかなか慣れなかった。自分の名前を言ってから、必ず聞かれる質問があるのだ。「何歳ですか」そして「結婚していますか」である。儒教の影響もあるせいか、韓国では相手と自分の関係を明確にし、年齢にあった対応をしなくてはならないからだ。

 年齢を聞かれたのにもひいているのに、「結婚していますか(韓国語では、結婚しましたか)」は、さらにプライベートな質問なので、最初はかなり面食らった。「いいえ、していません。独身ですけど」というと、さらに相手はこう続ける。「どうして結婚できなかったのですか?」ええ? これからするかもしれないではないか! と腹の中では思っていても、まだ日本人らしかった私は、「さあ?」とほほえんでいた。

 教会の人たちと食堂に入り、私は「キムチチゲにします」と言っても、「キムチチゲじゃなく、ビビンバにしなさいよ。ここはビビンバがおいしいからね。さあ、注文しましょう!」と言って、結局、食べたくないビビンバを食べるようなことは、日常茶飯事だ。こんな感じだったので、韓国に来たばかりのころは、韓国人に向かって日本語で怒っている夢ばかり見ていた。

 韓国では、薬局の数以上の教会があるといわれている。近所にも小さな教会がある。小さいといっても五十人はいる。しかも、ウズベキスタンやフィリピンで現地教会を作り、世界宣教もしている。

 その教会の早天祈梼会や水曜日の祈梼会に行っているのだが、本当にあたたかく、ほっとする教会だ。牧師も謙遜で穏やかで、反日感情が高まっている中で「望美宣教師に竹島問題や教科書問題のことで論議をふっかけないように」と信徒に伝えてくれていたり、韓国のキリスト教事情を教えてくれたりする。

 牧師夫人は、私を妹のようにかわいがってくれて、キムチを大きなタッパーにつめて持たせてくれたり、料理を教えてくれたり、あれこれと世話をしてくれる。冬には、コートを引っ掛けるように着ている私を呼びとめ、コートのボタンをすべてかけ、さらにマフラーを巻き、「さあ、気をつけて帰ってね」と言う。私は、自分が何歳なのか忘れてしまうほどだ。

 大きな教会で多くの信徒と一緒に讃美し、お祈りできるのも恵みだし、小さな教会でアットホームな雰囲気を味わうのも幸いだと思う。

 韓国に住んで四年目。気がつくと、日本に一時帰国して報告会をする教会で、「松本望美です。三十七歳です。独身です。でも、いつか結婚するかもしれません」と自らあいさつするようになっている。