天国へのずっこけ階段 第7回 レッドデビル

松本望美
北朝鮮宣教会所属/韓国在住

 W杯が終わり、ようやく韓国の街は落ち着きを取り戻した。

 韓国の応援チームは、“レッドデビル”と名づけられているので、W杯が近づくにつれ、町中に赤いTシャツを着た人があふれる。

 韓国の初戦の前、日本はオーストラリアと試合だった。私はひとり、息を飲みながら応援していた。日本が先制点をとると、小さく拍手をした。

 しかし、まわりの家から聞こえてきたのは「チェッ」という舌打ちや、「あ~あ!」というため息だった……。そして後半。オーストラリアが続けて点を入れると、近所中の家が拍手喝さいして喜んでいた……。

 韓国の初戦は、対トーゴ。韓国時間で夜十時にキックオフだった。その日は、家の近所の居酒屋や食堂の店先に大型のテレビが設置されていた。早くから酔っ払って叫んでいる人もいる。

 「デーハング(大韓民国)! デーハング!」と近所のどこからか声がすると、近所中がひとつになって叫び始めた。ゴール付近に韓国選手が進むと、その声は絶叫になり、ビール瓶やお皿を箸で叩いてカンカン鳴らすご近所あり、床をどんどん蹴る上の階の住人ありで、こちらは窓を閉め切ってもNHKニュースが全然聞こえない。

 夜十時からだったら、まだいい。二戦目の対フランスも、三戦目の対スイスも明け方四時からだった……。

 フランス戦の時は、会う人、会う人が「今日は、早く家に帰って寝なくては!」と言っていたし、驚くことに、会社に泊まりこんで全員で応援するっていう人もいた。ある学校では臨時休校になったり、ある会社では、次の日“ゆっくり出勤”になったそうだ。日本では考えられないことだ……。

 その晩は耳栓をし、窓を閉めきって寝た。昼間にわざとハードに働き、自分を疲れさせ、眠くなるギリギリまで起きていた。そして、その“作戦”がうまくいき、朝までぐっすり眠れた。

 次の日、日本人の友人からメールがきた。「大通りに面したわが家は、行き交う車がみんな“デーハング”のリズムでクラクションを鳴らし、さらに、アパートの一階にある食堂でも、三時半から宴会が始まり、試合が始まるとすごい騒ぎで、一睡もできませんでした……」

 三戦目のスイス戦の時、私は飛行機の中にいた。「あ~よかった! これで、あの喧騒から解放される」と機内でぐっすり眠っていた。しかし、明け方六時ごろ、突然、機長からのアナウンスが入った。何かあったのかと耳を澄ましてみると……、「お客様に申しあげます。本日行われた韓国対スイスの試合は、〇対二でスイスが勝ちました。しかし、フランスが何点取ったかによっては、韓国が決勝リーグに上がることができると思います。」

 お願い。寝かせて!