子どもたちに今! 伝えたい
「性といのち」の大切さ… 第11回 「いのち語り隊」について
永原郁子
マナ助産院院長
「いのち語り隊」の活動に興味があります。活動内容や依頼方法を教えてください。また、各世代の子どもたちに伝えるときに注意しているポイントはありますか。(神奈川県・HN)
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「いのち語り隊」は、助産師を中心とした性教育グループです。一年間の準備期間を経て二〇〇一年から講演活動を開始しました。幼稚園から小・中・高校、大学、また地域や行政、少年院など、年間約百か所に出向いて話をしています。性教育と言っても、実に様々な考え方があります。
例えば、いのちを進化論的に捉える人は、胎児の成長を生物の進化として話すでしょう。そのような切り口ですと、死んだ後は何もないと考えますから、死後の話はしません。一方、いのちは神さまのもの。神さまがこの世に送り出してくださったと考えると、いのちの意味やそれぞれの使命を問いかけることもできますし、死後のことにも触れることができ、肉体のいのちにとどまらない捉え方ができます。
受精の瞬間についてもそれぞれ表現に違いがあります。射精によって二億の精子が子宮に入り、二百ほどの精子が卵子に近づきますが、卵子と出会う精子はたった一つです。それを競争とみれば、二億の中から勝ち抜いた「一等賞のいのち」と言うこともできるし、精子たちが協力して卵子に近づき、その中の一つが卵子に突入したとみれば、「代表のいのち」「応援されているいのち」と言えるでしょう。
二次性徴についても、男女の外性器を説明するために大きなタペストリーや模型を作って話す人もいれば、プライベートゾーンなのでデリケートに扱いたいと考える講師もいます。セックスについても、「セックスするならコンドームをすること」という立場で、コンドームの説明に重きを置く講師もいれば、「いのちに責任が持てるまでセックスはしない」というノーセックスの立場で話す講師もいます。
いのち語り隊には、「いのちは神さまのもの」という考え方が根底にありますから、「大切なあなたのいのち」「この世に生まれたのには意味がある」「あなたは大きな力(神)に喜ばれている存在」と語りかけます。このように、存在そのものを肯定することによって自他のいのち、自他の性を大切にする生き方に導こうと考えているのです。
ご質問にもありますように、年齢によって重点とする所は変わってきます。幼稚園では人形劇を通して、プライベートゾーンの大切さと性被害の防止、そして、いのちの元が出会うセックスから誕生の素晴らしさまでを話します。
小学低学年では、幼稚園の内容に加えて出産の仕組みをより詳しく話します。小学中学年から高学年では、それに二次性徴が加わってきます。二次性徴の解剖生理とともに、二次性徴の素晴らしさや過ごし方などを話します。
中学生は一年生と三年生では成長に随分差があります。一年生では二次性徴を思春期の特徴などを含めて話すことが多いですが、二、三年生となると、男女交際や人工妊娠中絶や性感染症の話も加えます。高校生はDV(ドメスティックバイオレンス)や結婚を見据えた話が加わります。
子どもが学校で性教育を受けるときには、保護者としてどんな内容かを知っておく必要があると思います。もちろん、色々な考え方を知ることは大切なことですから、自分の考えと違うので性教育を受けさせないという選択ではなく、一緒にお聞きになるといいと思います。そして講師の考え方に加えて、お父さんやお母さんの考え方を話してあげてください。子どもたちは色々な考え方や生き方を聞くことによって、自分自身でより深く考えることができるようになるでしょう。性教育は生き方の学び、いのちそのものの勉強ですから、学校任せにせずに、家庭でも学校の学びの時期に合わせて話す機会を持ってほしいと思います。いのち語り隊でも、講演のときには保護者の参加を呼び掛けてくださるように学校におすすめしています。
現代の子どもたちが抱える「性の乱れやいのちの軽視」の問題は、子どもだけの問題ではありません。大人も真剣にかかわっていかなければならないと思います。いのち語り隊は、保護者や教職員の方々を対象に子育ての話を交えてお話しすることも多いです。
講演依頼については、助産院の仕事があるため、基本的には遠方からの依頼はほとんどお断りしています(可能なケースもありますので、一度おたずねください)。そこでこのたび、本を出版する運びとなりました。『お母さんのための性といのちの子育読本』が発売されます。今後ティーンズ対象の本も出版する予定です。どうぞお読みください。