子どもたちに今! 伝えたい
「性といのち」の大切さ… 第20回 彼の暴力
永原郁子
マナ助産院院長
あることをきっかけに暴力を受けました。相手のことを思ってついた?が原因です。普段から嫉妬深く、異性と話をしているだけで不機嫌になるのですが、自分を大切に思っているからだと言われます。普段はとてもやさしくしてくれます。ただ、自分に正直でいてほしいと言われます。手をあげられるのは怖いですが、正直に話してまた機嫌が悪くなり、殴られるかもしれないと思うと、その場しのぎの?をついてしまいます。そして、それがばれるとまた同じ繰り返しです。信頼関係が不足しているせいでしょうか。今後のお付き合いをどうしていけばいいか悩んでいます。(東京都/匿名希望)
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どんな理由であっても、暴力をふるわれても仕方ないということは絶対にありません。たとえ、たった一度だけの暴力であったとしても、その経験のためにいつも相手の機嫌を損ねないように気を遣ったり、恐ろしいと感じたり、ことばを選ばないと会話できないというのであれば、それは持続的に暴力を受けているのと同じです。どんどん自分らしさがなくなってしまいます。「彼と付き合う前の私はもっと陽気で、笑顔があった」と思うのであれば、付き合い方を見直すか、お付き合いを解消することも考えなければならないと思います。
人間関係は、夫婦であっても、恋人であっても、友達であっても、ご近所付き合いであっても、親子であっても、兄弟であっても、対等な関係を築くことがお互いの幸せです。力の差が生じ、暴力で相手を支配する側と それに従わざるを得ない側、すなわち支配と服従の関係であってはいけないのです。特に、夫婦間の暴力をDV(ドメスティック・バイオレンス)と言い、交際中の男女間の暴力はデートDVと言われています。
相手を支配しようとする暴力的な行為は、大きく五つに分類することができます。
【体の暴力】……なぐったり、けったりする。腕をつかんだり、行く手を阻んだりする、など。 【心の暴力】……バカにすることばを言う。ののしったり、罵倒する。無視する。いつも正しいのは自分だと言う。自分のことばかり話して、相手の話は聞かない。自分を怒らせたのはお前だと言う。自分の意見に従わないとイライラする。自分のことを一番に考えてほしい(オレと○○どっちが大事なんだ)。物を壁にぶつける。机などをガタガタさせて威圧しておびえさせる 。お前のほうが悪いと周りの人を納得させるのは簡単だなどと言う、など。
【社会的暴力】……相手が何をするか、だれと会うか、どこへ行くかなど、すべて知っておきたいと思う。一日に何十回もメールや電話があり、すぐに返信をしないと不機嫌になる。メールや電話の履歴を見る。異性と話をしていると不機嫌になる。活動を制限する。親戚や友達との付き合いを禁止する、など。
【経済的暴力】……お金を管理して、自由にさせない。仕事をさせない。必要なお金を渡さない。食べさせてやっていると思う。借金を重ねる、など。
【性的暴力】……セックスを強要する。避妊をしない。暴力的なセックス。浮気。
これらはすべて、相手を力で支配しようとする暴力にほかなりません。このような暴力をくり返す人の行動には、サイクルがあることが多いです。暴力をふるった後、とても優しくなる「ハネムーン期」がやってきます。その後、緊張が高まる「緊張形成期」があり、また暴力をふるいます。暴力期→ハネムーン期→緊張形成期の三つのステージをくり返します。サイクルが短くなると、緊張形成期がなくなり、暴力と優しさが交互になることもあります。
このような相手と良い関係を築くことは、極めて難しいです。夫婦間のDVでは、場合によっては、離婚も視野に入れて対処しなければなりません。「子どものために、私が我慢すればすむ」と考える方も多いですが、家庭内で暴力を肌で感じながら、いつも怯えているお母さんに育ててもらう子どもが健全に育つのは難しいことです。自分のためにも、子どものためにも暴力から逃れてほしいです。
ご質問をお寄せくださった方は、幸いにも結婚されていないようですから、交際を解消することを考えられることをお勧めします。別れ話がうまくいかないときには、親しいどなたかに中に入ってもらうことも考えられたらいいと思います。そしてだれにも気を遣わず、怯えず、心から笑える自分で生きてください。
暴力は犯罪です。絶対に許してはいけません。
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