子どもたちに今! 伝えたい
「性といのち」の大切さ… 第2回 誕生を語る
永原郁子
マナ助産院院長
「私が生まれてきたのには意味があるんだ」「私は大切な一人なんだ」「私は愛されているんだ」
このように、確かな自己肯定感や自尊感情を持つことは自分の人生を大切に生きていこうとする基盤となります。そして、そのように人生と真剣に向き合うことによって「自他のいのち」も、「自他の性」も大切にしようと考えることができます。
学生たちが講演を聞いた後に書いた感想文を読むと、そのことがよくわかります。「早くからHするということは、自分自身を粗末にあつかうのと同じ」「将来についてよく考えて行動していのちを大切にしたい」「いのちの重みを考えて人に優しく生きていき、子どもに尊敬される母親になりたい」「人生を間違わずに、幸せな一生を送るためにしっかりとした知識が必要だとわかった」など、人生を大切にしようとする生き方と、自他のいのちと性を大切することが繋がって学生の思考の中に定着していることがわかります。
しかしながら、現代の多くの若者は自己肯定感が低く、自分の人生を大切にしようという土壌が培われていない現実があります。財団法人日本青少年研究所の世界各国の高校生へのアンケート調査によると「あなたはダメな人間と思ったことがありますか」との問いに、日本の七十%の高校生が「ハイ」と答えています。他の国々より突出して日本の高校生はセルフイメージが低いのです。また、ユニセフの調査で経済協力開発機構加盟国のうち二十五か国の子どもの意識に関する項目の中で「孤独を感じる」と答えた日本の十五歳の割合は二九・八%で、二位のアイスランド(一〇・三%)やフランス(六・四%)、イギリス(五・四%)などに比べ、飛び抜けて高かったと報告されています。これらは中高生の問題ではなく、生まれてからそれまで、親や周りの大人から日々どのようなメッセージを受けて育てられたかという問題なのです。つくづく日本の子育てや教育を見直さなければならないと思います。
自己肯定感や自尊感情を高めるもっとも有効な方法は、冒頭で書きましたように誕生を肯定されることです。逆に自分が生まれたことを否定されると、人は前向きに生きていけません。昔は「橋の下で拾ってきた子」とか「お前はいらない子」などという乱暴な言葉が育児の中で使われたかもしれませんが、その頃は人間関係も複雑であり、誰かがそのような言葉とは裏腹に親がいかに誕生を喜び、愛情を持って子育てしてきたかを語ってくれる大人がいたのです。しかし現代は、親が発した言葉で子どもが傷ついたままになってしまうことがあります。子どもが誕生のことを聞いてきたときは、特別な質問として真剣に答えてあげてほしいと思います。「あなたが生まれて本当にうれしかった」「待ち望んで生まれてきた子」「生まれてきてくれてありがとう」と心から言ってほしいのです。
お産のことを話すとき「痛かった」と表現するママたちは多いです。確かにお産は痛みが伴うことが多いのですが、子どもはその言葉を聞きたくて誕生のことを聞いているのではないことをわかってください。言葉を置き換えて、「限界を超えた力で産んだんだよ」とか「必死で産んだんだ」という表現がいいのではないでしょうか。
最近は、できちゃった婚や離婚が増えています。子どもにとって、存在そのものが揺るがされる大きな出来事です。そんなときこそ、誕生を肯定してあげてほしいのです。もし離婚したとしても結婚そのものを否定してはいけません。「パパとママとの結婚はすばらしいことだった。だってあなたがこの世に誕生してくれたんだから」と言い続けてあげてください。どんな事情があれ、それが子どもに対する親の責任です。そう言い続けることで、心からそう思える日がきっとやってきます。
誕生だけでなく、存在そのものを聞いてきたときも、真剣勝負で応えてあげてください。「私みたいな子」とか「こんな私なんか」という表現は要注意。「大切なあなただよ」と優しく抱擁してあげてください。心の底から、生きる力がわいてくるでしょう。
いのちは本来、親のものでも自分のものでもありません。「いのち」は神さまのものです。「思いっきり楽しんでおいで」と送り出してくださったいのち。この世で果たす役割を持って送り出されたいのちなのです。
「あなたのいのちは神さまのもの」
これほどいのちを肯定する言葉が他にあるでしょうか。クリスチャンとして最高の言葉を子どもたちに伝えたいと思うのです。