子どもたちに今! 伝えたい
「性といのち」の大切さ… 第7回 子宮頸がんとHPVワクチン接種
永原郁子
マナ助産院院長
最近、時々受ける「お悩み相談」があります。それは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種についてです。「中学校などで受けるようにと勧められるが、本当に受けたほうがいいものなのか?」という疑問です。永原さんはどう思いますか。
(北海道J・G)◆ ◆ ◆
子宮頸がんワクチン接種の公費負担について二〇一〇年十一月に国会で補正予算が成立し、国と地方で費用を負担することになりました。二〇一〇年度後半から開始されましたが、希望者が多く、ワクチンの製造が間に合わないほどとのことです。昨年はテレビCМや情報番組などで子宮頸がんのことがよく取り上げられ、体験者のつらさとともに、ワクチンで予防できるがんであることが知らされました。しかし、そのワクチンは高額であるとの情報も耳にしました。そのような中で、公費負担という朗報がやってきたわけです。接種希望者が殺到したのもわかる気がします。
どの予防接種についても、病気に罹ったときのリスクと副作用を考えなければなりませんので、その是非については一概に言えないのですが、今回のこの一連の流れの中で重大な問題は、子宮頸がんワクチンに対する情報が行きわたっていない、ということではないかと思います。
子宮頸がんはもともと五十代に多いがんでしたが、ここ二十年間で二十代の罹患率が二~四倍に増えており、二〇〇四年に検診の公費負担を三十歳から二十歳に引き下げました。子宮頸がんは、子宮の膣の入り口から七センチほど奥にある子宮の入り口あたりにできるがんで、子宮体がんとは区別されます。子宮頸がんのほぼ百パーセントが、ヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頚部に感染することが原因であるということが分かっています。このHPVウイルスには百種類以上のタイプがあり、そのうち、がんを起こす〝発がん性HPV”と呼ばれているタイプが十五種類ほどあるようです。このHPVワクチン接種に際して、特に知ってほしい情報をまとめてみます。
● このワクチンで百パーセント子宮頸がんを防ぐことはできません。開発されたワクチンは、欧米の女性に多い十八型と十六型のHPVに対するワクチンですから、その他のタイプのHPVには無効です。接種してもがん検診は定期的に受ける必要があると製薬会社も明記しています。
● このワクチンの有効な年数がまだわかっていません。現時点では最長六・四年と言われています。
● 副作用のリスクはあります(接種に際して渡される説明書を必ず読みましょう)。また、長期にわたる副作用は全く不明です。
● 接種の対象年齢が中学生や高校一年生と低いのは、すでにHPVに感染している人にはワクチンの効果はないことと、もしHPVに感染している体にワクチンを打つと、HPVの増殖を刺激するという報告もあるからです。感染の可能性が少ない年齢が対象となっています。
HPVワクチンによってがんを予防できるというのは素晴らしいことですが、完璧なものではないこともきちんと知った上で接種を考えなければならないと思います。
また、子宮頸がんのほとんどが性交渉で感染しますので、これを機会に、親子で性について話し合ってほしいと思います。例えば、結婚するまで性交渉をしないという選択をすれば、それまでワクチンを打つ必要がないのです。それによってエイズなどの性感染症や妊娠、または人工妊娠中絶も防ぐことができます。
もう一つお伝えしたいことは、性体験がある男性と性交渉を持ったなら、女性は子宮頸がん検診を受ける必要があるということです。性交渉前に色々な性感染症の検査をすることが必要な時代なのですが、男性がHPV感染しているかどうか検査する方法は今のところありませんので、性体験があるということは、HPVに感染しているかもしれないと考えるべきなのです。子宮頸がんは、感染からがんになるまでに数年から十数年あるため、がん検診を受けることで、早期発見、早期治療が可能です。ワクチンを打った人も同様にがん検診を受ける必要があります。
しかしもし男性が、将来妻にする女性を子宮頸がんから守るために結婚するまで性交渉は持たないという生き方をし、パートナーとなる女性もそのように生きてきたのでしたら、ワクチン接種の必要はないというわけです。
このようなことを踏まえて、ご家庭でワクチンのことを考えていただきたいと思います。
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