宣教地からメリークリスマス! エチオピア
良き伝統が世界に伝えられることを願って
森田哲也
日本飢餓対策機構 エチオピア駐在員
毎年五万人にのぼる人々が飢餓に直面しているというエチオピア。その貧しい農村地域での国際協力支援のお手伝いを始めて五年になり、言葉、食べ物、気候などにはずいぶん慣れたものですが、その中でも感覚的に慣れないものがまだあります。
それは、私たちが使う西暦と七年九か月のずれがあるエチオピア暦。エチオピア暦の一年には十三の月があり、十二番目までの月はちょうど三十日ずつで、残りの五日(うるう年は六日)が十三番目の月になります。
エチオピア暦はエジプトのコプト教会暦に端を発していると言われており、年の初めは九月十一日。そして、エチオピアのクリスマスは一月七日なのです。ロシア正教徒も同じ日にクリスマスを祝うようです。つまり、ちょうど日本のお正月明け、七草粥を食べるころ、エチオピアでは羊、鶏などをほふり、親類縁者、友人が一同に会してクリスマスを祝っているのです。
私は、複数の同僚から招待を受けて、彼らの家をはしごするために、結局同じ肉料理を連続食べるはめになり、数日間は胃がもたれてしまうのが常です。しかし、日本や西洋のように年末クリスマス商戦にあおられることもなく、サンタクロース、ツリー、贈り物などがない、いたって静かでシンプルなクリスマスなのです。
エチオピアの四〇%ほどの人々がエチオピア正教徒ですが、彼らは一月七日のクリスマスよりも、約二週間後の一月十九日のエピファニー、「ティムカット祭」を盛大にお祝いします。これはイエスがヨルダン川にて洗礼を受けたことを記念して行われるものです。
エチオピア各地のすべての正教会には、タボットと呼ばれる聖櫃(アーク。モーゼがシナイ山で授かった十戒の石版を納めた箱)の模造品が収められていますが、このティムカット祭では教会の外に出され、色鮮やかな衣装と傘をまとった他の聖職者たちが、タボットを頭の上に乗せた聖職者を守るように取り囲みながら、行列を作り、街中を練り歩きます。そして、人々は白い衣装を頭からかぶり、その周りを一緒に行進し、踊ったりします。
クライマックスは、祭司たちが民衆に振りかける聖水の儀式で、水が頭に振りかけられると祝福や健康がその年にあるといわれています。そのためその聖水にあやかろうと、多くの人が駆けつけます。
一方、祭司や敬虔な正教徒たちは、お祭りの三日三晩、タボットを囲んで祈りに徹するのです。アフリカ大陸で、一度も植民地化されたことのない唯一の国エチオピアだからか、外国文化に流されることなく、伝統をしっかり守り通しており、それがクリスマス、エピファニーのお祭りによく現れています。
豊かな伝統文化がある一方で、エチオピアは現在多くの人々が食糧不足に悩まされ、海外からの支援に依存しています。私がこのエチオピアの飢餓に対してできることは小さく限られていますが、いつの日かエチオピアが、逆に海外の必要のある国へ支援の手を差し伸べられるような国になることができるように、そして過剰な消費欲にあおられない、静かなエチオピアのクリスマスを世界に伝えられるようになればと祈らずにはおられません。