往復メール shioya 最終回 バーバラ・ヘンドリックス

塩谷達也
シンガー/ソングライター/プロデューサー JECA 西堀キリスト福音教会会員

 マヘリア・ジャクソンが敬とのデュオの原点となったアーティストだったことは前にも書いたけれど、もうひとり大切な人を忘れちゃいけない。バーバラ・ヘンドリックスだ。僕は、『Negro Spirituals(黒人霊歌)』(1983)というアルバムを聴いて彼女を知った。

 彼女のスピリチュアル(霊歌)は、昔からクラシックをほとんど聴かず、ブラック・ミュージックに傾倒していた僕をうならせた。レパートリーとして黒人霊歌を歌うという試みは他の黒人オペラ歌手も行っている。たとえば、ジェシー・ノーマンやキャスリーン・バトルのアルバムでもスピリチュアルを聴くことができる。オペラの技術的知識なんかまったくなかったけれども、僕の耳には、バーバラのスピリチュアルがどこか他のシンガーのものと違うように聴こえたんだよね。

 それは、何というか、悲しみ、うめき、そして神へとすがる真っ直ぐな心、名もない奴隷たちが歌った霊歌に込められた感情や思いが、技術を超えて伝わってくる歌だった(それにはピアニストも貢献しているんだけど、そのあたりは敬にまかせて……)。

 スピリチュアルに出会ったころの僕の人生に、キリストはいなかった。にもかかわらず、バーバラの歌った黒人霊歌を次々と歌い、他の唄とは違う何かを感じていた。今振り返ると、すでにあの時から種はまかれていたと思う。僕はやっぱりシンガー。小学校に上がる前から演歌を歌い、中学校でロック・バンドを組み、高校でライブハウスに出て、大学で黒人音楽に出会い、人生のすべてのポイントで唄を歌い、唄を通して、大切なことを感じとり、学んできた。黒人霊歌を通して、信仰の姿を感じ取れたことに、今あらためてその意味を感じている。